またもや「ペースとタイヤ消耗の関連予測の正否」が勝負を分けました。
メルセデスが重量計測を90年前とは逆向きにミスして車検失格、G.ラッセルの勝利が幻となったのはさておき。
多くのチームが高速コースでありがちなミス「ダウンフォースの削り過ぎ」をやってしまいました。
これは実に微妙な問題ではあります。
しかし、たとえばオー・ルージュを抜けてラディオンを駆けあがるときの早さを決めるのはラ・ソースを超低速で回り込んでからの、ダウンフォース不足状態での立ち上がり加速です。
コース上で活かせるパワーとはまず何よりも立ち上がり加速に使えるパワー。
これを基準に「それぞれのコーナーでリアタイヤにどれだけダウンフォースを掛けるか」からセットアップを進めないといけない。
言葉にすると簡単ですが立ち上がり加速と直線後半の伸びの両立は難しい問題です。
しかもこの問題がタイヤ消耗を決定します。
タイヤ消耗を全く気にしないのであれば、たとえば。
「今の8倍から10倍の消耗を受け入れるなら」ダウンフォースをゼロとし、ラリーカー並みに良く動く足回りとしてヘアピンやシケインを今より速く回り、ラップタイムは今と同等にできます。
この仕様のマシンは前車に近づいた時の得失がポジティブ側でもあります。
今のF1は(2022年から施行の現レギュレーションでかなりマシになりましたが)ネガティブ側で、たとえばカナダGPでの角田のクラッシュが代表的です。
前車に近づきすぎ、ダウンフォースを失ったと角田が気づいたときにはもう手遅れでした。角田は陸上競技ならフライングと判定される水準の、人間と思えないほどの反射神経の持ち主ですがそれでもなお、観察と発見の遅れを補うことなどできません。
あるいはオーストラリアGPでのラッセルのクラッシュ。ダウンフォースと安定を失ったと気づいてからの反応は超人的な速さでしたが、手遅れでした。
さて前車への接近がネガティブ反応を招くマシンでのレースはどうしてもコース上での順位争いが少ない退屈な展開になりがちです。危険でもあります。
しかし。今の技術でダウンフォースゼロにしてしまうと毎レース20セット以上のタイヤを使い数周ごとにピットインすることになります。
もちろんそんな提案をするチームはありません。