ーーもはや、今のクラス……いや、今の学校で俺を"友達"として扱ってくれる人は誰1人いなくなった。
教師も俺の樹の関係に気づいたのか、極力介入をし、色々なところで距離を置くように配慮し始めた。
"今の友達"である蔵前や鹿山は、いままで以上に樹と一緒にいることが多くなり、俺を遠ざけた。
俺と樹は、林間学校を境に、完全に分断されてしまった。
そして三年となり、クラスも離されて。
それでも悪評がついてしまった俺には、誰も近寄らなくなって。
俺も、あの時、樹やみんなから向けられた視線が、記憶に残って、人と接しづらくなって。
あれが俺自身の"自爆"だったのは自覚している。樹はなにも悪くはない。悪いのは暴走してしまった俺自身。
だからこそ、俺は余計に人と接しづらくなっていた。
ーーそんな時、俺を救ってくれたのが"キャンプ"だった。
俺の異変に気づいた父さんが、知り合いに頼んで暇な時は、近くのキャンプ場で行われる初心者講習会でアシスタントができるよう計らってくれたのだ。
学校では孤独。だけど、キャンプ場に行けば、大勢の人がいて、知っている技術を教えて、感謝をされたり。
一緒に楽しい時間を過ごしたり……おかげで俺は心の傷を徐々に回復させててゆく。
そしてキャンプを通じて、様々な世代の人と接し、色々な考えや人生を教えてもらって。
あの時の話を、包み隠さずたくさんの大人に聞いてもらって。
やがて"中2の頃の心の暴走"の正体を突き止める。
……俺はあの時"木村 樹"のことが好きだった。
友達としての好きではなく、1人の女の子として好きだった。
そして好きな人に興奮し、エッチなことに興味を抱くことは、極自然なことだということも。
もしも、中2の頃、きちんと自分の気持ちを理解して、樹に接していれば、あるいは……
だけど、これはたらればだ。俺が自分の気持ちを理解していたって、樹があの時、俺と同じ気持ちでなければそうとはならない。
正直、あの時樹が俺にどんな感情を寄せていたのかは、今でもわからずにいる。
ーーそれに、そうしたことを考えるのは今更だ。
もはや俺と樹の関係は完全に終わってしまっている。
そして樹は、中学を卒業したら、ここから遠く離れた街にある私立の学校へ進む。
どうやら水泳の実力が認められて、強化選手として特待生枠で入学するらしい。
中学を卒業すれば、俺と樹は、もう2度と顔を合わせることはないのだろう。
そう思うと、都合のいいやつかもしれないが、俺はやはり"寂しい"と思ってしまう。
樹と仲良く過ごした日々は、今でも思い出すだけで、心が踊り出す。
あいつと過ごした楽しい1年間は、俺にとっての宝物だ。
今更、樹と男女の関係になりたいとは思わない。
散々最低なことをしてきた俺なのだ。樹が、俺を男としてみることは絶対にないだろう。
でも、もし、できることなら……俺はもう一度、樹と友達になりたい。
友達で良いから、側にいたい。
中1のころのように、ばかを言い合って、過ごしたい。
だって俺にとって、木村 樹は、女の子として好きな以上に、友達として、今でも大好きなのだから……。
<おわり>