• 二次創作

彼の鳥は生きている 14話の補足

皆様お久しぶりです。小向です。

ここでは14話で描写した先代セキレイの死因について、物語の展開上書けなかった、主に医学的な部分を補足します。

作中では、オオカラスから先代セキレイの死について語られた際、ヒイラギ医師が先代セキレイの死因について「肺塞栓およびDICではないか」と推測しています。この肺塞栓とDICとは一体どのような病気なのか、解説いたします。

①肺塞栓
肺血栓塞栓症とも言います。下肢や骨盤内の静脈で形成された血栓が剥がれ、下大静脈>右心房>右心室>肺動脈と流されていき、最終的に肺の血管を詰まらせてしまう病気です。肺は血液の酸素化を行っている臓器であるため、血栓によって肺への血流が滞ってしまうと、血液の酸素化が十分に行えなくなります。すなわち全身に酸素が行き渡らなくなってしまうのです。速やかに対応しなければ命に関わる、危険かつ重要な疾患です。
症状は突然の呼吸困難や胸痛、頻呼吸、動悸、チアノーゼ。重症になると意識消失やショックが起きます。治療は乱れた心肺機能を安定化させることを最優先に、肺血管に詰まった血栓を取り除くことです。薬で血栓を溶かす場合は、ワルファリンやヘパリンなど血液を固まりにくくする薬を使ったり、血栓溶解剤t-PA(これは前作「みつめたさきは」で脳梗塞を治療するために主人公の医師が使用していました)を使ったりします。薬で十分に血栓を取り除けない場合、外科手術を行うこともあります。
Jリーガーの高原直泰さんはこの病気にかかったことで知られています。


②DIC 播種性血管内凝固(はしゅせいけっかんないぎょうこ)
別名”究極の血栓症”。何らかの基礎疾患や素因によって、血液を固めて血栓を作るシステムに誤作動が起き、全身のあらゆる血管で不要な血栓を大量に作ってしまう病態のことを言います。大量に作られた血栓は内臓や組織への血液循環を妨げ、多臓器不全を引き起こします。更にDICの恐ろしい点は、全身で血栓が大量に作られているにもかかわらず、非常に出血しやすくなってしまうのです。これは、全身で不要な血栓が大量に作られているために、血栓の材料となる血小板や凝固因子が枯渇してしまうこと。それに加えて、不要な血栓を除去するために人体に備わっている血栓を溶かすシステムがフル回転し、止血に必要な血栓まで溶かしてしまうからです。
症状は、臓器の障害が目立つ場合、出血が目立つ場合などがあり、一概には言えません。しかしいずれの場合も大変重篤で、集中的な治療が必要になります。予後もかなり悪いです。
正直に申しましょう。このDICという病態を理解するのはめちゃくちゃ難しいです。医療系を専攻していない方は、「DIC? 体中で血栓が出来まくって、血がめっちゃ出る、めっちゃヤバい病気だよね」という認識でOKです。余談ですが、医療ドラマ「JINー仁ー」にDICは登場していたりします。


では、先代セキレイはなぜ肺塞栓とDICを起こしてしまったのか。

その理由は彼女が妊娠中であったことに加え、肺塞栓を起こす直前まで何も飲み食いせず、ずっと座っていたからです。脱水状態の人や妊娠中の女性は血管内で血栓が作られやすく、血栓にまつわる病気を起こしやすいのです。その上長時間座りっぱなしであったために、足の静脈内で血流がうっ滞し、血栓が形成されてしまった。立ち上がった際に足の血栓が剥がれ、静脈を流れて肺動脈を詰まらせた。いわゆるエコノミークラス症候群を先代セキレイは起こしていたのです。DICについては、妊娠中でお腹に胎児がいたという素因に加え、肺塞栓などがトリガーとなって発症したものと考えられます。流産については、DICの結果起きてしまったものと私は考えています。

残念なことに、仮にこの時側にいたオオカラスが「肺塞栓」や「DIC」という疾患を知っていたとしても、先代セキレイを救命することは困難だったと思います。この2つの疾患、特にDICは現在の高度な医療技術を持ってしても救命は簡単ではありません。ましてや物資も施設も無い離島で対応するには、この2つの疾患は役不足だったのです。

いかがでしたでしょうか。筆者である私はこのような症例を思い浮かべながら、先代セキレイの回想シーンを描いていました。もしよろしければ読み直していただきますと、「ああ、これはあの病気のあの症状なんだ」なんて気づきがあるかもしれません。

「彼の鳥は生きている」も最終盤、いよいよクライマックスです。「これは本当にけものフレンズなのか?」と筆者でさえ思ってしまうような展開が続きます(たぶん)が、何卒最後までお付き合いください。私も楽しんで書こうと思います。

*つい先ほど14話に一箇所修正を加えました。たった一文字の修正ですが、かなり重要な箇所でしたので、恥を忍んで修正いたしました。大変申し訳ありません。

それでは、失礼いたします。

小向 拝

参考文献
イヤーノート メディックメディア社(2021)
DIC(播種性血管内凝固症候群) 日本血液製剤協会
http://www.ketsukyo.or.jp/disease/dic/dic.html

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する