今話、後半にトナムさんがアルドラに語りかけている中で、カーレム夫妻の名前などのモデルにさせて頂きました、中世の偉大なる菓子職人にして料理人アントナン・カーレムが、製菓の芸術性について語った言葉を使っています。
ですがこの言葉、私の知っているだけで三種類くらい別のパターンがあります。
ひとつは、ただ単に「製菓は芸術の五分野の中の建築に含まれる」と、言っただけのもの。
今ひとつは、「芸術の分野は五つある。絵画、詩、音楽、彫刻、建築。だが建築は他の四つの分野を複合的に含み、製菓はその建築の分野の中にある」というもの。
最後の一つは、「芸術の分野は五つあるが、製菓は建築に含まれる。だが、製菓は、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、五感全てに訴えかける事を考えれば、究極の芸術である」というもの。
とりあえず今回は、真ん中の言葉を使わせて頂きました。
ちなみに、建築に含まれる理由がもう少し細かく語られているのですが、そのあたりは長くなるのではしょりました。
あと、後ろの方の話になるほど菓子職人さんから耳にします。
また、カーレムの活躍した時代では芸術の分野を五つとしておりましたが、現在では演劇・舞台なども加わってあと何種類か増えているようです。
さらなるこぼれ話になりますが、実は私、このアントナン・カーレムが書き記した「19世紀のフランス料理術」という本の初版版を手に入れる機会があったんです。
ただし、全五巻90万円という値段で、就職したばかりの私には手に入れられるだけのお金がありませんでしたが。(いや、金があっても買ったかどうかは別問題なんですけどね)
本の中で何百ものレシピやテーブルセッティングを披露している「19世紀のフランス料理術」は1833年から34年にかけて全5巻が刊行された、カレームの著作の中でも特に有名なものですが、執筆中に彼が没してしまったために、最後の2巻はカレームの弟子の手で完成しました。