「018 旨いコーヒーとエリクシルの仮説」に登場するコーヒーメーカー、エクセルシオールブランドの企業ロゴです。
以下SS
こんな時でも、朝のルーティンは欠かさない。
ロランは、船主室へ向かう途中にキッチンに寄った。
収納からカップを取り出すと、コーヒーマシンに置いた。
マシンの液晶画面に複数のコーヒーの映像が流れている。
そのうちの一つを2回タップする。ダブルのエスプレッソだ。
画面にコーヒー豆が不足していることを示すマークが映し出される。
ロランはマシン上の収納から、コンテナを取り出す。
縁が金色のコンテナのパッケージは深煎りされたコーヒー豆がグラデーションのように徐々に濃いコーヒーの液体に変わり、最後は泡になるようなデザインが施されている。
エクセルシオールブランドのものだ。
エクセルシオールブランドは宇宙でも5本の指に収まる、人類が誇る人気のコーヒーメーカーである。
その歴史は長く、地球に本社を構え創業700年になる。
過去に異種族もコーヒーに似た飲み物を取り扱うことはあったが、普及することはなかった。
しかし人類の銀河進出により広がったコーヒー愛は、コーヒーの淹れ方、コーヒーの炒り方と具合、豆の産地や種類、コーヒーに何を足すか、それらの創造性の高さと奥深さが異種族を魅了し受け入れられたのだ。
異種族の好みに合わせてそれぞれのコーヒーメーカーが台頭し発展と没落を繰り返し、生き残ったそのひとつがエクセルシオールブランドなのだ。
エクセルシオールブランドはそのブランドと財力を惜しまず、惑星をいくつもコーヒー豆栽培のためにテラフォーミングし農地としている。
この豆は惑星ヤコン産のプラチナという銘柄でフルシティローストされた、油分を含み艶のある茶色が特徴を持っている。つまりはエスプレッソにピッタリなのだ。
ロランは父も常飲していたコーヒーに対して特別興味を抱いていたわけではなかったが、HUBの喫茶店で店主や客に試飲を勧められ、熱心に教え込まれたことを切っ掛けに、コーヒー熱が高まりその日のうちに、マシン一式を購入し船に取り付けたのだ。
エクセルシオールブランドについても、その時勧められたものだ。
ロランはコンテナを開け、マシンの投入口を開けるとそこに傾ける。
コーヒー豆がざらざらと音を立て流し込まれる。時折、明後日の方向に飛び、パチッと音を立てて跳ねる。
コーヒーマシンが豆の投入を認識し稼働する。
ガガガガガガガガッ
マシンがコーヒー豆を高温で抽出しやすいように極細挽きにする。
ガッチャン、ガッチャン……
マシンがコーヒー粉を専用のホルダーに移し、タンパーで押し固める。
ギューーーウンウンウンウウン、ガッチャン、ゴォーーーーー
内部のポンプが気圧を調整し、高温の蒸気がエスプレッソを抽出する。
チョロローー、ジョロジョロ、コポポポ……
カップにエスプレッソが注がれる。
コーヒーにクレーマと呼ばれる細かい泡が立ち、湯気と共に豊潤な香りが広がる。
ロランはカップを取ると砂糖をひと匙加え、軽く混ぜる。
鼻元で湯気を「スゥー」と深く吸い込み香りを楽しんでから、一口飲む、そしてもう二口目で飲み干す。
鼻腔から咽頭にかけて豊かな香りが通り抜ける。
口の中では爽やかな酸味とコクのある苦味に加え、ほのかな甘さが芳醇な味わいを演出する。
それらはロランの味覚と嗅覚を、脳内のニューロンを刺激する。
故郷で父がキャンプ中に飲んでいたコーヒーの香りを思い起こさせる。
きっと味も香りも違うのだろう。だけど懐かしい、そんな感じがする。
「……やっぱりうまいな」
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