*ちょっとした小話です。
*《》に入っている「ひらがな」は、「ふりがな」としてお考えください~。
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まだ風が凍てつく冬の日、私は空の写真を撮ろうと外に出ていた。
厚い雲が覆っていたが、あるときから強い風によって切れ間が作られる。そこから柔らかな日差しが差し込むと、一気に幻想的な雰囲気が広がった。
私は雲と太陽の光が織りなす、二度と同じものが再現されることない空をじっと目で見る。さらにパシャリ、パシャリと何度かシャッターを切ってカメラに収めた。
そのうちに、今度ははらはらと雪が降り始める。
「撤収しないといけないだろうか……」と思ったが、強く降る気配はない。
どうやら小雪程度で済みそうだ。そう判断すると、構わずそこに居続ける。
しばらくすると、ふうっと黒い影が視界に入るのが見えた。
距離があったため、種類まではよく分からない。
だが、飛び方とその特徴的なくちばしを見る限り、猛禽類《もうきんるい》のように思えた。
彼(もしくは彼女かもしれないが)は、私の頭上をすっと超えたかと思うと、風の吹く方向に合わせ、ゆったりと優雅に空を舞う。
鳥なのだから上手に飛んで当たり前なのだが、それが本当に見事に風を掴んでいるので、すごいなぁと心の中でいちいち感嘆してしまう。
暫く彼の飛ぶ姿に見惚れていたが、雲の切れ間から降り注ぐ光が一層強くなったときである。彼は再び私の頭上を越え、雲の切れ間に向かっていった。
そのときだった。
一瞬だけ彼の背が明るく光ったのである。ちょうど、光が差し込んでいるところに入ったのだろう。
それまで曇り空の下にいたために影絵のようにしか分からなかったが、茶色い羽がちらと見えた。艶のある美しい羽だと思った。
一方の彼はもうここに用はないと思ったようで、そのまま西の空へと飛んで行った。
私はその背をカメラを構えず見送る。こちらが気持ちいいと思うくらいに、すーっと飛んでいく。
ほどなくして姿が見えなくなったとき、私も帰路につくことにした。
何気ない一場面だが、彼のお陰でより一層いい時を過ごしたと思った日だった。
(おしまい)
*写真、思ったよりも鳥が遠くてすみません(汗)