最高の映画だった。テーマは、不意の喪失と偶然の一致。
私はこの物語の始まりを覚えていない。そして、彼女が帽子を無くした瞬間を覚えていない。私は確かにあの場所にいて、不意の喪失を味わったのだ。
端的に言えば上のこと。観ているのだが、意識の外に飛んでいく、その変化に気づけないのだ。気づくと何かが失われている。これはとても怖いことだし、何より悲しい。私はそこに共感してしまう。ホテルが閉じる瞬間も私たちにとってはまさに不意にきた喪失だ。
物語には沢山の偶然の一致が存在する。それは、彼と彼女の間に起こったこと。倒れたお爺さんの側に偶々、看護師の男性がいたこと。偶々、同じサークルに入った人間たちと出会うこと。偶々、掃除の人が彼女の口づさんだ歌を5年後に口づさんでいたこと。
主人公は偶然の一致なんてものはないという。そんな当たり前のことをありがたがるなんておかしいという。でも、そんな彼は、5年前と同じ服装で、彼女が過ごした部屋に泊まっている。彼は偶然の一致を待っているのだ。待つしかないのだろう。
物語にはさまざまな偶然の一致が存在する。でも最後彼の手に帽子が戻るという偶然は決して起こらない。そして、その偶然が一致する機会は消えていってしまう。