消灯後の22:00くらいから病室の外で猫みたいな声がしていて、多分患者さんのうめき声かなんかだろうなと思っていた。
23:00位に眠くなってきたので、部屋の電気を豆電球に落として寝た。眠りに落ちるまで猫のようなその声は続いていた。春先に外で睨み合ってる猫の声だ。
浅い眠りの中で何度かその声が大きくなるので、その度に目が覚めて薄目を開いていたら、何度目かの時に足元にぼんやりと黒い人影が立っていた。
お、幽霊か。と思い、目を開けると当然そこには誰もいない。時計を見ると0:00丁度。猫のような声が止まった。その時、病室の入り口がゴンゴンとノックされガラガラと勢いよく開けられた。これには少しビビった。
で、声が先に入ってくる。「大丈夫ですか?」と。部屋の電灯がついた。眩しさに目を細める。どうやら電波で飛ばしてる心電図に異常が出たので看護師が駆けつけてくれたらしい。
「大丈夫です。何ともないです」答えると、「一度確認しますね」とワイの鎖骨下と脇腹に着いてる電極を調べ始める。
「失礼かも知れませんが外でずっと猫みたいな声がしてましたね。患者さんですか?」と尋ねる。看護師の手が止まった。「あー、聞こえましたか……」看護師が苦笑を浮かべる。何か凄く嫌な予感がした。
「それ、不思議な話で、患者さんによく言われるんですよ。でもそんな声は実際はしてないんです。うめき声が上がったら私たちがすぐ駆けつけますから。さすがに数時間も続くなんてことは無いですよ」「そうですか、じゃあアレはなんなんでしょうね」ワイの質問に看護師は沈黙で返した。表情は曇っていた。
「……電極が外れてたみたいですね、なるべくコードを引っ張らないようにして寝てください。あれ……? ちょっと待ってください。あ、電池切れてますね。お取り替えします」看護師は少し慌てた様子で病室を後にした。どうやら心電図の電波を飛ばす装置のバッテリーが切れていたようだ。いつから切れていたのか、それは例の異常な波形が出る前か後か、あまり深く考えてはいけないような気がした。
多分、ここには昔、猫が入院していたのだろう。で、治療の甲斐なく亡くなってしまった。で、春が訪れるたびにああして鳴くのだ。とりあえず、そういうことにした。
となると、あの黒い人影はなんだったのか?
……わからぬ。
ワイの入院生活、一日目から不穏。