【コミュニケーション能力とは何か】
その意味するところが学生と社会人でかなり異なっていると思います。
社会では、年齢も価値観も異なる人たちとの間で、ときに利害の反する関係でさえあっても、うまく落としどころを見つけ、丸く収めて次につなげていけるようなコミュニケーションが求められ、これが上手にできて初めて「コミュ力が高い」と認められます。
もちろん、気が合うか合わないか、好きか嫌いかなどによる選り好みなど許されるはずもありません。
当然、マウントや論破とかもあり得ないわけです。
本人は勝ち誇った顔をしていても、周囲はやらかしているやつとしか評価していません。
長い社会人人生の中で、目の前の短期的な利益を奪い取ってホクホクしているけど、長期的な利益を失っていることに気付かずにいるわけですから「未熟だね」と見られて当然です。
一方、学生が言うコミュ力はたいてい、年齢が近く、学力レベルや得意分野も近いというきわめて同質性の高い人たちの間でのことであり、さらに付き合う相手を選り好みできたりもします。話す内容も、大きな利害や責任が絡んだものはそれほどないのではないでしょうか。
よって就活の場で「私はコミュ力あります」という学生がよくアピールする、ゼミやサークルでリーダーシップを発揮した話とか、文化祭の実行委員を上手くまとめることができた話とか、そういった武勇伝的なものは面接官にほとんど刺さりません。
なぜならこれがいかに社会では通用しないかが歴代の先輩たちによって証明されており、教訓として採用基準に生かされているからです。
さらに踏み込みます。
持ち前のコミュ力を生かして「人の役に立つ仕事がしたい」ということで、人材や福祉の仕事に就く人がいるのですが、そこで相手にするのは自分よりも年齢や経験を重ねた人がぶつかっている「人生の壁」の話だったりします。
例えば、ずっと主婦でやってきた女性から『夫がリストラに遭って心も壊してしまって働けない状態であるにもかかわらず、子供の学費を稼がなくてはならないから仕事を探している』という相談をされて、どんなアドバイスをしてあげられるでしょうか。
例えば『健康診断でガンが見つかり、それもかなり進行している状態であるため、もう少し楽な仕事にシフトしたい、家族には心配をかけたくないので言いたくないがどうやってスムーズに転職をすればよいか』という相談をされて、どんなアドバイスをしてあげられるでしょうか。
結論です。
学生が言うコミュ力は同質な中でのこと。
社会が求めるコミュ力は異質な中でのこと。
「バランスの難しさ」に大きな差があります。
学生が言うコミュ力はたいてい生活レベルであり、社会が求めるコミュ力はときに人生レベルなのです。
「質と重さ」に大きな差があります。
コミュ力を誇る学生が社会に挑んだときにぶつかる壁は、難しいバランスを求められることと、受け止めきれないほどの重みなのだと思います。