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【魔眼】番外編4話「どうしてこんなに」

 海沿いのこの町の中央には柵で覆われた円形の決闘場がある。

 古くから女を取り合った男たちがここでぶつかっていたのだとか。

「おやおや。こんな夜更けに決闘かい?」
「懐かしいねぇ。最後にやったのは30年近く前だったか?」
「最近の若い子は草食でつまらないからねぇ」
「久々に楽しめそうじゃわい」

 どこで聞きつけたのか、もう22時だというのに近所の老人たちが観戦に集まってきた。

「リュクスさま。帰りが遅いと思ったら」

 そして、メイドたちも全員が集まってきた。
 デポンはため息をつきながらモルガを叱る。

「まったくお前がついていながらこんなことにリュクスさまを巻き込むなんて」
「え~。だって」
「だってじゃない。男からの求愛など切って捨てれば良いだろう」
「そうですわモルガ。元々その気もないのでしょう?」
「う~ん? どうかな?」
「「「「「え?」」」」」

モルガの曖昧な返事に、メイドたちと俺は同時に驚きの声を上げた。

「か、勘弁してくれよモルガ。お前が嫌がってると思ったから、俺はこのくだらない茶番に付き合ってるんだぜ?」

「確かにあの方には全く惹かれませんけど。お付き合いしてから徐々にいいところを見つけていく……みたいなのも素敵じゃないですか? せっかく私のことを好きって言ってくれているですし」

「じゃあどうする? メイドを辞めて、アイツについていくのか?」

「ふふ、それを決めるのはリュクスさまですよ?」

「はぁ?」

「ほら、そろそろ決闘が始まりますよ」

 モルガに背を押され、俺は決闘場の中に入る。

 正面には準備万端といった様子のオニー・ブラボーが立っていた。
 筋肉は膨れ上がり、体から湯気が出ている。

 そして、審判気取りのレナータさんが口を開いた。

「では軽くルールを。殺しは禁止。魔法、武器、その他特殊な能力を使用せず己の肉体のみで戦うこと。ギブアップ宣言は早めにな! それでは試合開始!」

 と、決闘が始まった。

 魔法やらは一切使用禁止。

 俺も鍛えてはいるが、相手も相当のものだろう。

 苦手な魔力コントロールをなんとかすれば……。

「フン……甘いナ!」
「何!?」

 瞬きの刹那、オニーがすでにこちらに接近してきた。

 くっ……早い!?

 オニーのパンチを腕でガードする。

「……今の動き。コイツ」

 八百屋とか言っていたがこの男、滅茶苦茶バトル慣れしてやがる。

 魔法さえ使えればなんてことない相手なのに。

 己の肉体一つ。しかも剣もなしに戦うとなると、手厳しい相手だ。

「オラオラどうした! 守ってるばかりじゃ勝てないゼ!」

俺は敢えて攻撃をすることなく、オニーの猛攻を捌く。

「お前のような軟弱なチェリーボーイはやはり彼女にはふさわしくナイ!」

考えるのは、本当に勝っていいのか……だ。

『一生お仕えするって決めてますけど』

 いつだったか、モルガはそう言った。

 一生メイドとして俺の側で働くと。

 でもそれは、果たして彼女の幸せなのだろうか。

 いつか屋敷を出て、優しい旦那さんを見つけて家庭を持って。

 そういう幸せがあってもいいんじゃないのか。

 モルガや他のみんなは当たり前みたいにずっとゼルディア家に仕える気でいてくれているけど。
 それは彼女たちが外を知らないだけで。

 選択肢がないだけで。

 もっと、別の幸せがあるんじゃないのかと。
 
 その方がいいんじゃないかと。

 そう思ってしまう。

「ヘイチェリーボーイ。そろそろギブアップして彼女を俺に譲れヨ!」
「……うるさい」
「ハイ?」

 だが思いとは裏腹に。
 俺はまったく違うことを口にしていた。

「モルガは誰にも渡さねぇって言ってるだろうが!」
「なっ!?」

 俺がずっと攻撃していなかったから、オニーは無警戒だった。

 顔面に一発いいのを貰ったオニーは、大きく後退する。

「へ、ヘェ! いいパンチじゃないか。ガッ」

 だが一発受けたら最後だ。
 パンチと同時に闇の魔力を流し込んだ。

 突然のことに体が拒絶反応を起こし、オニーはフラついている。

 そして。

「あ……そんな……一撃デ……オウ」

 その場に倒れた。

 レナータさんはフッと笑うと。

「勝者! リュクス・ゼルディア」

 勝者である俺の名を告げた。

***

***

***

 その後、屋敷にて。

「痛ぇ……」
「ほら、動かないでください。消毒しますから」
「染みる……」

 屋敷に戻った俺は、モルガに怪我の治療をしてもらっていた。

 いろいろ考えている最中に攻撃を受けすぎたせいか、結構いろいろなところを怪我していたのだ。

 モルガはソファーに横になった俺の傷をニコニコしながら手当している。

 その表情はいつも通りで、何を考えているのかまったく読めない。

「モルガ……」

 俺が一人でいるといつもやってきて、側に居てくれた。

 まるで俺に寂しい思いをさせないようにしているかのようだった。

 昔は鬱陶しく思っていたが、今はそれが心地良い。

 ずっと気になっていたんだ。

『モルガは誰にも渡さねぇ』

 どうして俺はあんなことを言ったんだろうって。

 モルガと二人で同じ空間に居る。

 たったそれだけのこの時間が、どうしてこんなにも幸せなんだろうって。

 手当中、俺の体に触れていた君の手が離れるとき、どうしようもなく悲しくなるのはなんでなんだろうって。

「ああ……そうか」

 俺、この子のことが好きなんだ。

「はい。終わりましたよリュクスさま」
「ありがとう……あれ? おい、立てないんだけど」
「え? あ、あ~包帯を巻きすぎてしまいましたねぇ」
「両足同時に結ぶとかありえる!?」

 ミイラじゃん……。

「ごめんなさい~!」

 ドジで明るくて優しくて。

 そんな君とずっと一緒に居られたらと。

 そんな自分の気持ちに、気づいてしまった。



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