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城之内怪談①「座り込んでいた女性」

こんにちは。
初めましての人は初めまして。
城之内です。

最近、ふと知人に「なんか怖い経験多いみたいだけど、そういうのどっかに書かないの?」と何気なく言われたので、だったら……とちょっとここに書いてみようかなと思いました。
自分が怪異系の創作をしているので、関連がある場所の方がいいかなと思い、noteじゃなくて近況に記してみようかと思います。
怖くはないと思います。

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今から七年くらい前の話です。
当時、城之内が勤務している会社は今とは違う別の建物の9階に入っていました。その建物は戦後からずっとある古いビルで、9階建て。その最上階に勤めていたわけですが、9階には我社以外にもあと二つ程企業がおりました。まぁ普通のどこにでもある感じのビルだと思いますよね、これだけを聞くと。

しかし、そのビル。
普通の明るいオフィスとかじゃあないんですよ。
一個しかないエレベーターを出たら、しーんと鎮まり返った長い廊下が目の前に広がり、4つ程ある部屋の入口の扉はまるで防火扉のように重たく分厚い。それを開ければようやく各々の企業の部屋……という仕様だったのですが、これが廊下に窓も何もないもんですから、扉が全て閉まっていると、本当に人の気配すら感じないのです。
例えるなら、深夜のホテル……エレベーターを降りたらそれぞれ部屋がありますが、もちろんみんな寝静まっていたらしーん……としていますよね?あんな感じだと思っていただければいいかと。

そんな環境で仕事をしていたわけなんですが、この建物、エレベーターが1つしかないくせに、一階下の8階が所謂講習会用の貸し出し会議室になっていて、毎日のように一般のお客さんがエレベーターに乗って8階に出入りするもんだから、必然的にエレベーターに乗れず、仕方なく毎日のように階段を9階まで登っていました(今となっては自分すごいなと思う。当時は車夫から転職したばかりだったので、体力お化けだったのもあるかも……)。
まぁ毎日のように登っていたら慣れて来て、何とも思わないようになっていたんですが……ある時、ちょっと変化が現れました。

城之内は午前に銀行へ行ったりすることが多く、その日も当たり前のように階段を9階から1階へ向かって降りていました。
すると、6階付近の踊り場に差し掛かった時に、隅の方に女の人がしゃがんでいたのです。肩くらいの髪の毛は黒く、着ている服は濃く深い緑色のワンピース。膝を抱えるようにしてしゃがんでいて顔は見えませんでした。
ひょっとして具合が悪いのかな?と思い「大丈夫ですか?」と話しかけたのですが無反応。どうしたもんかと思い、立ち竦んでしまいましたが……ふと、足元に目をやった時に、違和感に気がつきました。

靴をね、履いていない。
なんなら、薄暗くも天井の電気によって足元に出来るはずの影が……ない。

あ、これは人じゃないかもしれん。

一瞬で状況を理解した城之内は、そのまま逃げるようにその場を去りました。
銀行で用事を済ませ、さあ戻るという時。
案の定エレベーターは人がかなり待っている。
仕方ないのでいつも通り階段を上がり、その6階に差し掛かった時……やはりまだ彼女はそこで座り込んでいました。

あーこれは……誰かについてきたのかな。

当時のビルは年期も入っている上にどことなくじめっとしていて、ああいう類のモノは住みやすい環境だったかもしれません。ゆえに、居ついたのか。
その日から暫く、その踊り場付近で彼女を目撃する事は多くなり、「あ、まだいるなぁ」なんて思うのが日常になっていました。


月日は流れ、秋の終わりごろ。
その日、荷物を配達してくれた某S川急便のお兄さん。
重たい箱を担いで、なんと階段を上がって来たというではありませんか。

「いやぁ、今日エレベーター修理中だったんですねぇ。持ってあがるの苦労しました」

そう言って笑う彼にペットボトルのお茶を渡しつつ「重たいから大変でしたよね」と何気なく言えば、彼がふと「そう言えば」と続けたのです。

「あがってくるのに、何階だったかなぁ……踊り場で可愛い子が座ってたんですよ。エレベーターだと会えなかったから、ラッキーだったかな!」

……ん?
その女の子って、ひょっとして……。


そんな事が頭をよぎり、思わず話を続けようかと思ったのですが、多忙なお兄さんは「降りるときまだいるかもですね~」と言いながら早々に退室していってしまったのです。

(お兄さんには、彼女が見えていた?)

実はあの女の人の話を、城之内は同じビル内で働いている数人に話していたのですが、いずれにせよ誰も目撃なんかしていませんでした。
しかし、あのお兄さんは見えた……それになんかちょっと気に入ってる感じでした。なぜ?顔なんか見えなかったでしょうに。膝抱えるようにしてしゃがんでいたんだから……。

いや……仮に顔が見えていたとしたら?

怪異は時として、狙った相手には積極的になることもあります。
もしもあの女の人が……お兄さんを気に入ったとしたら……?
城之内には見せなかった「顔」を見せた可能性もあるのではないか……。
ぐるぐると考えつつ仕事を終え、帰り際、その6階を通りました。


彼女は、いませんでした。


たまたまだと言い聞かせ、その後もずっと階段を使い、他のビルに引っ越す日までずっと6階を通りました。

だけど、あの日以来彼女を見る事は二度とありませんでした。



某S川急便のお兄さん。
恐らく気に入られたんでしょうね。
彼女を拾ってしまったのか……?
そのお兄さんとは、引っ越しした先が管轄外だったので、今ではもう会うことはありません。
ただ、最後に会った時に左手を怪我していたのが今でも引っ掛かっていたりします。


座り込んでいたあの女性の行方は、いまだにわかっていません。



******


……というのが、七年程前の実体験です。

幽霊って、仮に霊感がある人が複数名いたとしても、この人には見えるのにこの人には見えない……ということはざらにあるそうで、要するに相性の問題なんだとか。

どこで、どんなモノがこっちを見ているかはわからないということですね。
そしてひょっとしたら、自分が見えているモノが他人には見えないかもしれません。不思議ですね。


今回のお話は以上です。



それでは、また!

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