こんにちは。
初めましての人は初めまして。
城之内です。
本日、イリプレイサブルの11話目を更新です。
遅くなってしまい申し訳ありません。
何卒よろしくお願い申し上げます。
さて、今日のタイトルはとあるピアノ楽曲の曲名です。
ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、リチャード・グレイダーマンの「渚のアデリーヌ」という曲です。
今日、城之内が仕事中に某施設のストリートピアノの前を通りかかると、40代くらいの女性がこの曲を弾いていました。
楽譜はなく、どうやら暗譜している。
所々躓きはするものの、とても透き通った綺麗な音でした。
仕事中なのについ足を止めて聴き入ってしまい、演奏が終わった後女性に話しかけると、なんとピアノを始めたのはここ一年半というから驚きです。
「渚のアデリーヌですね、すごく上手ですね」
「いや、まだまだ。でも好きだからたくさん練習したんです。タイトルを知っているということは、貴方もピアノを?」
「いえいえ、自分は小学生の時に二年程しかやっていないので弾けません。でもこの曲にはちょっと思い出があって……」
そういった瞬間、不覚にも城之内ときたら突然ぽろっと涙が出てしまいました。
女性はびっくりして「え!?」と。
そりゃそうですよね。目の前でいきなり泣かれたら誰でも驚きます。
でも、涙が出たのは理由がありました。
実はこの曲、旧友のお兄さんがよく音楽室で弾いていた曲でした。
その旧友は昔で言うところのギャルで、そのお兄さんである彼も所謂ヤンキー。授業はさぼる、たばこだって吸ってみちゃう。バイクもちょっと乗ってみちゃう。とにかくヤンキーで見た目だって金髪で派手派手。
でもそんなお兄さんは吹奏楽部に所属していて、不思議なことに音楽に関してだけは誰よりも真面目でした。
ある日の放課後、音楽室からピアノが聴こえると思って覗いてみると、弾いていたのはそのお兄さん。そして曲は「渚のアデリーヌ」でした。
「すごい、これ掃除の時間に流れとる曲だ」
城之内が拍手すると、お兄さんはにっかり笑って、
「すげーじゃろ。ええ曲よな。大好きじゃけぇ弾けるようになったんじゃ」
と言いました。
その時の印象がとても強く、自分はいまでもこの曲を聴くたびに彼の事を思い出してしまう。
でもそんなお兄さんは、それから数年後に行方不明になってしまいました。
生きているのか、死んでいるのかも、どこにいるかもわからない。
ただ、どこかで生きていて欲しいとずっと思っています。
「渚のアデリーヌ」の生演奏を最後に聴いたのは、そのお兄さんのピアノだったのです。
だから今日……それこそ十数年ぶりに生で聴いて、ちょっと感極まってしまったというわけです。いやはや、お恥ずかしい。
もちろん弾き手の女性にも事情を話しました。
彼女は少し悲しそうに「そうだったんですね。どこかでまた、会えるといいですね」と言ってくれました。
琴線に触れる、という言葉があります。
これはまさに、こういうことなのかな……と、城之内はそのあと一人で会社に戻る道すがらに考えました。
心が震えました。
自然と涙が出ました。
とっても素敵な音でした。
また、いつか巡り合いたいものです。
それでは。