既に高齢にもかかわらず現役で活躍されていて、もしもその存在がなくなってしまったら、すごく喪失感に襲われるだろうなーというクリエイターの方が何人かいるのですけど、その一人が本日、亡くなられてしまいました。
エンニオ・モリコーネ。享年九十一歳でした。
実は、最近書いた企画用の短編『雪を溶く熱』でBGMとして挙げていた『1900年』という映画のサントラは彼が手掛けたもので、ここのところずっとこのサントラを聴いていました。朝起きて、ふと久しぶりにこの曲が頭に浮かんで、曲からイメージして書いたのが、あのお話なのです。単なる偶然なんですけど、でも、なんとなく不思議なものを感じています。
モリコーネさんはほんとうにたくさんの映画音楽を作っていて、私も数えきれないくらい彼が音楽を手掛けた作品を観てきました。イタリア人と日本人って、感覚的にどこか通じるところがあると思っているのですけど、とにかくこの人の音楽は琴線に触れるのです。
たくさんある中でも、忘れられないのはマカロニウエスタンの曲、特に『荒野の用心棒』から始まるセルジオ・レオーネ監督の作品はどれも印象的で、でも最高傑作は『ウエスタン』でしょう。女性コーラスが美しくて、希望に満ちていて、力をもらえます。これは『パンプキンとカカオ』という小説(西部劇+SF)を書いていた時に、よく聴きました。
レオーネ監督では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』も素晴らしいです。同じイタリア人監督が、ハリウッド大作として撮ったこの作品の音楽を、恐らくはとても気合を入れて書いたのだろうと思わずにはいられません。
そして、たぶん最も有名なのは『ニューシネマ・パラダイス』でしょう。この映画と、そして音楽は本当に素晴らしいです。あの曲を聴くとあのラストシーンがまざまざと思い出されて、未だにぼろぼろと涙がこぼれてきます。あの、映画史上に残る見事な伏線。それにぴったりと重なるあの曲。本当に素晴らしいです。
前述の『雪を溶く熱』という小説の中に、フェノミナという、人が突然消えてしまう不思議な現象が出てきます。偉大なクリエイターは、その人自体が消えてしまっても、作品は残り、人々の心にも作品が与えた何かは残ります。彼はたくさんの何かをたくさんの人に残しました。私の心にも。
ほんとうにありがとうございました、モリコーネさん。