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癖のやつ 2話目

とりあえず2話目です。6000文字あります。

3話目から限定公開行きします。



――――




「リューさん!起きて!」

「……んぁ?着いたのか…………?」

「違う!盗賊に襲われてるんだ!」

 寝ていたところをガキに起こされる。男に起こされるなんて最悪な目覚めだ。だが俺の乗っている馬車を襲おうなんて馬鹿な連中だ。件の領主といい王都の外の治安はどうなってんだ一体。

「はぁ……めんどくせぇ…」

 俺は渋々体を起こし、馬車の荷台から外に出た。荷台から出てきた俺を見た盗賊共は一斉に慌てだし、腰が引けていた。

「金色の髪に黒い目………まさか王都に召喚されたっていう勇者じゃ……」

「ば、馬鹿言え!勇者が王都を出るわけないだろ!自分の国を守るしか脳がない奴だ!」

 随分と好き勝手言ってくれる。俺は出たかったのに女が許してくれなかっただけだ。間違えてもらっちゃ困る。

「……それで?やるか?」

 俺は短剣になったままの神器に手を掛けて圧を放った。俺としても人間を殺したくはない。出来れば大人しく捕まって欲しいのだが……

「っ……うるせぇ!その高そうな装備ごと置いていけ!」

 リーダーらしき男の号令と共に盗賊は俺に向かって突撃してきた。数にして6。神器の試運転には丁度良いだろう。

「んじゃ遠慮なく」



「つ、つえぇ………」

「そりゃ勇者だからな」

 向かってきた盗賊共をコテンパンに叩きのめし、盗賊が持ってた縄で全員縛り上げてやった。
 それにしても神器ってのは凄い。一切の刃こぼれもなく、この小ささで相手の剣の刀身を見事に粉砕していた。普通に短剣としても優秀なのにまだ使えてない力もあるとかなんとか。良いもの貰ったようだ。

「よし。とっとと向かうぞ」

 俺は盗賊を置いて荷台に乗り込んだ。するとガキが信じられないといった眼差しで俺のことを見てきており、ムカついた俺はチョップをかました。

「いったぁ!?何すんだよ!」

「うるせぇガキ。大人をそんな目で見るな」

「………それは悪かったよ。てかガキじゃない。メルトだ」

「男の名前とか聞いてねぇんだよ。教えるなら姉ちゃんの名前教えろ」

「それはなんか嫌だ」

 男としての本能から俺に姉を取られると思って警戒しているのだろうか。どうやら人を下半身だけで動く獣だって勘違いしてやがる。間違ってねぇけど。

「……じゃあいい。寝る」

「………おう」

 俺は目的地まで再び荷台に横になってから眠りにつくことにしたのだった。



「リューさん。着いた」

「あいよ…………んっ……」

 深刻な声のメルトに起こされ、俺もすぐに目を覚ました。そして様子を確認するために荷台から降りてぐっと背伸びをした。
 パッと見はただの農場があるタイプの小規模な村にすぎない。だが活気はないし、よっぽど客が珍しいのか俺をジロジロと見てきていた。

「よっと……」

「っ!?メルト!!お前どこに……!」

 荷台からメルトが降りてきた事を確認すると男の村人の1人がこちらに走ってきた。なにやら心配しているだけでなく怒りも感じる。だがそれを分からないメルトは前向きに振る舞っていた。

「王都から勇者を連れてきたんだ!これでもう大丈夫!」

「勇者!?勇者がこんな村に来るわけ……」

「どうも。勇者です」

「なっ…………いやそんなことより!大変なんだ!お前が居なくなった後にあの領主が来て……逃げ出したって事に気づいたんだ!そしたらお前を差し出すまで1人ずつ処刑していくって言い始めて………」

「ぇ…………」

 男の話を聞いて俺は「まぁそのくらいはするだろうな」と冷めた感想しか出てこなかった。だがメルトは絶望の表情を浮かべていた。こんな環境下で逃げ出すことがどうなるかなんてメルトには分からなかったのだろう。見た目的にも15くらいの子供にすぎないしな。
 そしてメルトは完全に言葉を失ってしまい、仕方なく俺が代わりに詳細を尋ねることにした。

「その処刑はもう始まったのか?」

「いや…今日の夜からだ。俺の妻を殺すと言って連れ去っていった」

「そんな…………ごめんなさい……俺…こんなことになるなんて……」

 事態の深刻さを理解しつつあるメルトは項垂れてしまって俺を頼りに村を逃げ出した時の行動力は消え失せていた。そんなメルトを無視し、俺は話を続けた。

「そのクズはどこに?」

「ぇ……えっと…ここから少し離れた所に町があるんだが、そこに屋敷があるらしい」

「………分かった。ありがとう」

 領主が居るであろう場所を確認した俺は完全に意気消沈してしまったメルトを村人の男に任せ、馬車へと向かった。そして馬車を運転してくれていた城の執事で俺の剣術の師匠でもあるアーノルドに声をかけ、近くの町へと急ぐことにしたのだった。




「リュー様。到着しました」

「あいよ。助かった」

 町へと到着した俺は早速屋敷を探すことにした。軽い聞き込みをするとすぐに目的地は見つかり、日が暮れる前にと正面突破することにした。



 ―――――――

 屋敷の中、領主の寝室にて。


「貴様の弟はまだ帰ってこないらしいなぁ!」

「っ………申し訳ございません……」

 小太りな男が赤く綺麗な髪の女を鞭で打っていた。女は裸のまま体中に鞭で付けられた痕が赤くなり、血が出ていた。泣きながら頭を垂れて謝る女に男は容赦なく鞭を打ち続けていた。

「姉弟そろってワシを馬鹿にしよって……ゴブリンの群れにでも放り投げてやろうか!」

「申し訳ございません………それだけは……どうかお許しください……っ!」

 女がここに捕まってからかれこれ5日。地獄のような日々が続いていた。最初は逃げ出そうとしていた女も諦め、この苦しみから解放されたいと願うだけだった。

「…………ふん。ならば今日も楽しませて貰おうかの」

「………はぃ。ありがとうございます…」

 鞭打ちから逃れられるならと女は男の提案に安堵すら覚えていた。そんな女の泣き顔を見て男も更に興奮していき、ズボンを脱ごうとしたその時………


「うーっす。勇者でーす」

 固く閉ざされていたはずの寝室の扉が蹴破られ、勇者を名乗る金髪黒目の男が入ってきた。だが勇者というにはあまりにもぶっきらぼうで、携えていた剣も小さくどこか頼りない。そんな勇者に対し男は動揺して叫んだ。

「なっ……警備はどうなっている!なんだこの男は!」

 男の叫びは誰にも届くことはなく、ズカズカと勇者は部屋に踏み込んできた。

「あー……全員ぶっ飛ばした。案内もしてくれて助かったぜ」

 勇者は短剣を抜き、男に突きつけた。だが男はその剣の矮小に勝ち誇った笑い声をあげ、机の上に置いてあった拳銃を勇者に向けて発砲した。

「死ねぇ!」

「ほい」

 銃弾を避けきれる訳がない。そう女は思っていたのだが、勇者は避けるのではなく剣で受け止めてしまった。先程まで包丁くらいの大きさしかなかったはずの剣でだ。

「なっ……なんだそれは…………」

「これか?神器ってやつらしい」

 短剣は瞬きのうちに勇者と同じくらいの長さを誇る大剣へと姿を変えていた。それに体を覆い尽くすほどに刀身の幅も広く、銃弾を完全に防いでいた。

「神器だと………貴様本当に……!」

「そう。勇者」

 勇者は拳銃に向かって手をかざした。すると一瞬で拳銃を握っていた男の手もろとも凍りついてしまった。やっと自身の死を感じた男は醜く焦り始め、頭を垂れて勇者に懇願した。

「金ならある!どうせ村の連中から頼まれたんだろう!知ってるぞ!貴様は金と女が全てだということを!いくらだ!いくら欲しい!」

 その問いかけに勇者は呆れたように溜め息をつき、大剣の切っ先を男の喉元に突きつけた。

「俺もさぁ……人の事は言えねぇクズだし、確かに金は大好きだ」

「だ…だったら!」

「でも女の方が金よりも数百倍好きなんだよ。そもそも金には困ってねぇし。悪いね」

 勇者は剣を振り上げ、勢いよく男の脳天に振り下ろした。女は血が飛び散るのを覚悟して目を背けたが、小気味のいい音が部屋に響くだけだった。

「………それにクズは背中を刺されても文句は言えねぇんだぞ。その前に捕まるんなら案外幸せ者かもな」

 勇者は刀身の腹で男の頭を叩いたようで、男は意識を失って倒れていた。この一連の出来事に女が呆気に取られていると、勇者が女へと手を伸ばした。

「っ……!!」

「暴れんな。傷を治すだけだ」

 女が条件反射で逃げようとすると、勇者は優しく語りかけて、回復魔法をかけはじめた。みるみるうちに傷は治っていき、今までの傷は痕もなく消え去ってしまった。

「…あり…がとうございます……」

「どういたしまして」

「………その……あの…」

 女は感謝を述べ、なんで助けてくれたのかを聞こうと思考を巡らせた。だがそんな話をする前に勇者は女の顔を覗き込み、変なことを言い始めた。

「アンタさ。めっっっちゃ美人だな」

「ぇっ………いやっ…」

「名前は?」

「……………アル…です」

「そうか。良い名前だ」

「…………ありがとぅ……ございます…」

 アルはあまりに突然の褒め殺しに対応出来なかった。女を美人というが勇者もそれなりに顔は整っている。それでいて強く、この地獄から救いだしてくれた。アルにとっては心踊らない方が無理な話かもしれない。

「さて帰るか。君の弟が待ってる」

「弟……ってまさかメルトが!?」

「そうだ。その姉想いのメルトに頼まれて俺ははるばる救いにやってきたんだ」

 勇者は寝室のクローゼットから適当な女の服をアルに放り投げ、賑やかに微笑んだ。

「良い弟を持ったな」

「…………はい…」

 その後、勇者は囚われていた村人の妻も地下牢から助けだし、領主の後始末を王都に報告してから村へと戻ることにしたのだった。



 ――――――――


「姉ちゃん!!!」

「メルト!!!」

 村に戻り、アルが荷台から降りるとすぐにメルトが泣きながら走ってきた。村人の男も安堵した表情で妻と抱き合っており、俺は集まってきた村人達に新しい領主は王都から俺が信頼できる奴を派遣すると伝えた。これで少しは楽になるはずだ。



「あの……勇者様!」

 村人達への説明を終えるとアルが俺の元へとやってきた。やっぱり美人だ。マリアに匹敵するくらいのな。

「どうした?どっか痛むのか?」

「いえ……その…なんとお礼をしたものかと……思いまして…夕食なんかを良ければご一緒に………」

「分かった。いただくよ」

「はいっ!メルトと一緒に頑張ります!」

 アルは本当は明るい子だったようだ。見た目的に年齢は17前後だろうか。あんな苦労をした後だというのに強かな女だ。メルトに良く似てる。

 というわけでその日の夜。俺はアルの家で夕食をご馳走になることになった。両親は早くに他界したらしく、今は2人で暮らしているのだとか。出てきた料理は正直王都の物に比べれば普通としか言い様がなかったが、暖かく懐かしい味がした。お袋の味ってこういう意味なのかもしれない。

 そんな美味しい料理を食べ終えると、メルトは疲れからか机に突っ伏して眠ってしまった。アルはそんなメルトを起こさずに1人で台所に立ち、洗い物をし始めた。俺は座ってるようにと言われたのを無視し、片付けを手伝うことにした。

「命の恩人にこのような事をさせるわけには……」

 当然アルは止めようとしてきたのだが、俺は強引に隣に立った。するとアルもすぐに諦め、俺に少しだけ体を寄せた。

「本当に、ありがとうございました」

「勇者として当然の事をしたまでだ」

「……ご立派ですね」

 俺の魔法を使えば洗い物なんてすぐに終わるがそれでは意味がない。その後、アルは王都での暮らしについていくつか尋ねてきた。俺は王都での半年間の出来事を面白おかしく語り、それを聞いていたアルも明るい笑顔で答えてくれた。

「やっぱアルはかわいいな」

「ぅえっ………お世辞は良いですから…こんな田舎娘……」

「お世辞じゃねぇよ。かわいい」

「……………ありがとう…ございます…」

 俺はアルの笑顔を褒め、その赤い瞳をじっと覗き込んだ。アルも俺の顔を見上げ、少し背伸びをして目を閉じた。なんともかわいらしいアルに答えるように俺は顔を近づけて唇を触れ合わせた。アルの唇は震えており、表情も険しくなっていった。

「勇者様………大変身勝手なお願いではありますが……聞いてくださいますか?」

「勇者様じゃなくてリューでいい」

「……リュー様」

「リュー。名前で呼んでくれよアル」

「………………リュー……さん」

「……まぁ良いか。それで?」

 アルは片付けをしていた手を止め、目に涙を浮かべながら俺に頭を下げた。

「あの男との……記憶を…忘れさせてください………一度で良いんです……」

 あまりに切実な願い。まさかこういう流れになるとは思いもしなかったが当初の目的通りではあるし、断る理由もない。

「一度と言わず……アルが満足するまで付き合うよ」

「リューさん………」

「アル……」






 早朝。

「とっとと行くぞアーノルド」

 俺は朝っぱらから馬の世話をしていたアーノルドに声をかけた。ここでのやることは終わったし、長居するもんでもない。

「よろしいのですか?」

「別にいいよ。アルにも話はしたし。笑って許してくれた」

「左様で。ところで荷台に新しい荷物が積んであるのですが……如何されますか?」

「荷物?」

 アーノルドの意味深な発言に俺は荷台のカーテンを開いた。すると中でメルトが気持ち良さそうに眠っていやがった。

「何してんだコイツ」

「昨晩、家を抜け出して入り込んできました」

「いや止めろよ」

「抜け出した理由も想像つきましたので」

「…………あっそ」

 とりあえず俺はメルトを叩き起こし、どういうつもりなのかと問いただすことにした。

「おいこら泥棒。何寝てんだ」

「ぐえっ………何すんだよ……」

「とっとと出てけガキが」

「……アンタの旅に俺も連れてってくれ」

「嫌だ」

 メルトの戯言に俺は食い気味で否定した。メルトは何か反論しようとしてきたが、それよりも早く俺は苛めることにした。

「なんだ?昨日の夜に大好きな姉ちゃんが乱れた姿を見て俺に憧れたか?」

「!!?み、見てない!!!」

「そうか?じゃあ開いてた扉の隙間から見えてたあの赤い瞳はなんだったんだろうなぁ?」

「……………………見てない……」

 顔を赤らめ、俯いてしまったメルトに対し、俺は真面目な口調で諭すことした。

「俺の旅はいつ死ぬか分かんねぇんだぞ。いくら俺が強くても負けることだってあるかもしれない。だとしたら次に死ぬのは近くにいるお前だ」

 そんな俺の脅しを聞いたメルトは顔をブンブンと勢いよく横に振り回し、覚悟をしている目で睨んできた。

「アンタが負けるならどのみち死ぬだろ」

「………そりゃそうだ」

 それだけ聞いて俺は問答無用でメルトを荷台から摘まみだした。「なんでだよ!」と怒るメルトに俺はチョップをし、アルが寝ている家を指差した。

「まずは姉ちゃんに許してもらってこい。話はそれからだバカガキ」

「っ…………わ、分かった!逃げるなよ!」

 メルトは急いで家へと走り出した。俺がその様子を溜め息をつきながら眺めていると、アーノルドが笑いながら声をかけてきた。

「逃げますか?」

「逃げるかよ。アルが許すなら俺はとやかく言えねぇよ」

「……お優しい方だ」

「どこが」

「…………確かに。気のせいでした」

「おい」


 そんな会話をしていると家の方からメルトがアルと共にやってきて、俺はアルから直々にメルトをよろしく頼むと頭を下げられてしまい、仕方なく同行を許したのだった。

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