X氏がまだ存命の頃にしてくれた話。まだテレビゲームと言えばカセットに入っていた頃の事だそうだ。
当時は子供が買うにはなかなか高価な物で、ゲームを買ってもらえるのは年に一回のお年玉をもらったときとクリスマスプレゼント位だったそうだ。
だが、彼の家の近所には中古のゲームショップがあった。そこを見る度に羨ましいなと思いながら通りすぎていっていたのだが、ある日友人がこっそりと『良いものを見せてやるよ』と言うのでついて行った。そこは山を少し登ったところにある、お地蔵様だった。
友人はそのお地蔵様の祠に手を突っ込んで、奥の方をガサガサかき回して袋を一つ取り出した。
中を見せてきたので覗いてみると、中にはぎっしりとゲームカセットが入っていた。友人は貧乏というわけではないが、このくらいのゲームをポンと買ってもらえるほど裕福ではない。しかも出てきたのが奥まったところにある地蔵の祠の奥の方だ。
「おまえ……パクってきたのか?」
そう訊ねると友人は自慢気に言う。
「スゲえだろ? これだけあれば当分は遊べるぜ、お前にも一本くらいはやってもいいぞ」
丁重にお断りしてから『せめて隠し場所を考えろよ、罰当たりが過ぎるぞ』と言ったのだが、聞いたのか聞いていないのか空返事しか帰ってこなかったので、あきれ果てて一人で帰った。
三日後、その友人は事故に遭ったのだが、自転車で転んで骨折を下という事だ。そのお見舞いに行ったときに友人が言った。
「お前の言うとおりだったよ……自転車で坂を下ってたら突然前の方に岩が転がってきてさ、それに乗り上げて転んだんだよ……でさ……信じてもらえるか分かんないけど……転んでからのたうち回っているときに目に入ったのが……岩だと思ってたのは地蔵だったんだ……しかもさ、なんかやたらとニヤニヤ笑ってるんだ……罰って本当に当たるんだな」
彼にはとりあえずゲームカセットくらい店に返して謝ったらどうだと言ったのだが。店より警察より今はあの地蔵が一番怖いので取りに行きたくないと言ったそうだ。
それなりに昔、今は二人とも鬼籍に入ってしまったが、そういう時代の話だ。