Cさんがバイクで山を走っていたときの事だ。雨上がりにバイクで走っていたのだが、靄が立ちこめてきた。時期的におかしくはないし、雨上がりに視界が悪くなる事は覚悟していたが、その時は思った以上に前が見えなくなった。
路肩にバイクを止め、スマホを出して現在地を確かめる。GPSによると山の中腹にいるようだ。
少し待つと靄が晴れたのでスピードを出しすぎないように急な下り坂をシフトを下げてゆっくり走って降りた。そうして家に帰って来る事ができたので一安心してカップ麺を食べる事にした。
お湯を入れた三分、タイマーをかけて待っている間にふと冷静になった。今日の目的地は山の向こうだった、そして霧に包まれるまでは山を登っているところだった。登りの途中でGPSを確認したので間違いなく上り坂が続かないとおかしい。しかし、いったんバイクを止めて走り出すとずっと下り坂だった。
つまり登り切る前に下り続けたのだ。どうしてそれで家に帰る事が出来たのかは分からない。いつもの道であればもうしばらく登ってそこから下り坂だったはずだ。
妙に思ってスマホの移動ログを確認すると、山の登り道の中腹から突然山頂を少し越えたところに位置情報が飛んでいた。そこで思いだしたのだが、あの山は昔神隠しがあったと噂になっていた事があるらしい。
もしかしたら神隠しに少しだけあったのかもしれませんねと彼は笑って言った。