Hさんは食事とあらば大量に食べる事と決めている恰幅の良い男性だ。大抵のものは綺麗に食べきるのだが、どうにも苦手なものがあるらしい。
「シリアルがね……食べられないんですよ」
その理由について話していただいた。
ほら、シリアルって牛乳をかけて食べるじゃないですか? 俺は牛乳をかけたらもう飲むように食べていたんですよ。その方が効率よく食べられますしね、まあ一日か二日もすればそんな食べ方をしていると無くなるんですけど。
それである時の事なんです。シリアルに牛乳を注いで一杯飲んだところ、口の中でガリッとした感覚があったんですね。異物でも入っていたかと思い吐き出すと、それは歯なんですよ……
慌てて洗面所に行って自分の口の中を鏡に映したんですが、何処も欠けていないし、血の一滴も出ていないんですよ。
あの歯がなんだったのかなんて知らないんだけどさ、それからシリアルを食べるのが苦手になったんだ。
彼はそう古い思い出を語った。