• 異世界ファンタジー
  • ホラー

SS:知ってる番号

 Bさんはその日、自転車ですこし遠くまで行こうとしていた。健康のためという事もあり、体力が切れそうな距離を選んでそこまで行き、食事をして帰ってくると言う目標を立てた。
 スマホでルートを確認しながら走っていく、風を切って進むのは気持ちが良かった。それだけでもエントリーモデルとはいえロードバイクを買った元が取れた気がした。
 ある程度進んでいくと、山が来る。体力勝負だぞと思いながら力を入れて登板していく。
 そこまでは順調だった。そのまま峠を越えて下り坂を走り出したときの事だ。少し走っていくとスマホが大音量で鳴った。調子が良かったのにと思いながらブレーキをかけてスマホを見ようとすると、目の前を信号無視のミニバンが勢いよく通り過ぎていった。一歩間違えたら随分と危ないところだったが、たまたま電話が鳴って良かったと思いスマホを確認した。着信履歴には携帯番号が表示されていたが、番号に見覚えがあったはずなのに誰か思い出せない。
 興が削がれたのでそのまま帰宅し、昼食のカップ麺を食べていると思いだした。あの番号は自分がレトルト食品ばかり食べていると『体に悪いぞ』と口うるさく言ってきた父親の番号だった。ただ、彼の父親はもうすでに亡くなっている。あの時目の前を、信号無視で通り過ぎていった車を考えると『助けられたのか……』と思ったそうだ。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する