Eさんの会社ではエレベーターの使用が禁止されていた。なんでも以前新入社員が閉じ込められて一騒動あったからだそうだ。
三階とはいえ毎日階段をのぼるのはしんどい、エレベーターを使わせてくれと幾度もいろいろな人から文句がつくそうだが、毎回それは却下されていた。
実のところエレベーターの使用自体は自由なのだが、トラブルがあったときの対処費用が自分持ちと言われていたので誰も使っていなかった。普通は労災なのだが、会社側の詭弁としては、まだ終業する前に起きたトラブルだから労災ではないと言い張っていた。
そんなリスクは取れないので仕方なくみんな階段で移動していた。そんなある夏、ボーナスが出たのだが、Eさんはふと、これだけあればトラブルに遭っても自費で賄えるなと気づいたそうだ。
そこで早速翌日にはエレベーターに乗ってみた。快適に動き、三階の表示になったのでそこで降りた。しかしそこは電灯がついておらず真っ暗なオフィスだった。
窓の外も真っ暗になっており、混乱しつつ今度は階段でビルを出てみた。するとその日の深夜、終電近くになっている事が分かった。
混乱しつつその日はそのまま帰宅し、翌日は階段をのぼって出社した。そして上司から呼び出され『エレベーターつかったろ?』と言われた。誤魔化せないので頷くと『ああいうことがあるんだよ。だからエレベーターは使用禁止なんだ。お前の無断欠勤の理由は適当にでっち上げておくから昨日の事は誰にも言うなよ』と説明になっているのかどうか怪しい事を言われた。
何にせよ二度と体験したくないのでそれ以来彼はエレベーターを使わず出勤しているそうだ。なお、時々オフィスから出るとエレベーターが動いている事があるが、他の階のオフィスでそう言った事が無いのかは怖くて聞けないそうだ。