Jさんが以前働いていた会社の話だ。社長が大層縁起を担ぐ人で、毎年お守りや招き猫など買ってきては職場に飾っていた。
正直安全祈願のお守りを買うより危険予知の訓練でもした方がいいんじゃないだろうかとは思ったそうだが、社長のやる事なので文句も言えず、ただそれをありがたがっている振りをしなければならなかった。
その年の事だ、Jさんがとある工事案件を頼まれて現場に行っていた。安全管理も何も無い会社だったが、文句を付けられるような立場ではない。渋々危険な現場で働いていたのだが、その現場で吊っていた物が落ちたのだが、結構な重量のある資材で、真下にいたら間違いなく死んでいただろう事だった。
たまたま彼はその時トイレ休憩に行っていたので難を逃れたが、そのせいで社長の験担ぎはドンドンと宗教的なものになっていった。
「助かった手前言いたかないんですけど、社内に得体の知れない仮面やどう使うのかさえ分からない杖のようなものまで縁起物だと飾っていくので勘弁してほしいんですよね……」
彼はうんざりするようにそう言った。ただ、職場自体は宗教的なものに目を瞑れば快適なのでやめる気は無いようだ。