Qさんは昔、ゲーマーだった。まだガチャの存在していないゲームが主流だった頃の話だ。
彼は当時、やりこみプレイにはまっていた。低レベルクリアからRTAまで様々なプレイをしていた。一つのゲームをやりこむので、ゲーム自体への代金はそれほどかからないのだが、湯水のように時間を使うのでバイトもできず、お金はいつも無いままだった。
そうなると中古ショップでゲームを買う事になる。都合よく欲しいゲームがあるかどうかだが、当時は最速クリアしたら売り払ってしまう人がいて、中古で買うのに支障は無かった。
ある時、一つのゲームを買ったのだが、中古で売る前にセーブデータを消していないようで、おそらく女性であろう名前がそのゲームの主人公名として入っていた。
そしてもう一人、主人公のライバルに名前を付けられるのだが、それが数字の羅列になっていた。はじめはなんでこんな名前になっているのだろうと思い、少しの間そのセーブデータを消さずに新しいデータを作って遊んでいた。
そのままプレイしているときに両親から電話がかかってきた。真面目に大学に通っているのかという小言だったのだが、その内容は重要ではない。電話を切ると090から始まる番号が表示され、気が付いてしまった。
あのライバルの名前は電話番号だ、しかもちょうど今はスマホの電話はかけ放題のプランに入っている。
慎重に非通知の設定をしてライバルの名前の番号をそのまま入力して電話をかけた。
「私じゃダメなのおおおおおおおおお!」
その声が地獄の底から響くように聞こえてきたので思わず電話を切った。それから翌日にクリアもしていないゲームを中古で売り払った。クソゲーでもクリアまではやりきるという彼のポリシーには反したが、あんなおっかないものを持ち続ける気にはならなかった。
そうして今ではガチャ方式のゲームにも慣れたそうだが、あの声を聞いていなければ未だに買いきりのゲームをプレイしていただろうという事だ。