「大した話ではないですよ? それでもいいんですよね?」
Yさんはそう念押ししてから話を始めた。
「話といっても驚くほどシンプルなくだらない話なのかもしれないんですが、未だに記憶に残るほどあの時は気分が悪くなりましたよ」
それは彼女が疲れて帰り、リラックスのためにコーヒーを一杯入れようとしたときの事だそうだ。
「私は豆からコーヒーを淹れるのが好きなんですよ、流石に焙煎はしませんがね、その時も豆をコーヒーミルに入れて砕こうとしたです」
見るのスイッチを入れた瞬間に大きな叫び声が上がったそうだ。彼女によるとアレはどう考えても悲鳴だそうだ。
「事件とか何かがあったわけじゃ無いんですよ、ただ、アレを私は間違いなくコーヒー豆の揚げた悲鳴だと思っているんですよ。植物の命がなんて言う気は無いですが、明らかにコーヒーミルからの音でしたから」
なお、彼女はその豆をドリップしてそのまま飲んだそうだが、熱湯を上からかけてもその声はしなかったし、出来上がったコーヒーはいつもの美味しさだったそうだ。