• 異世界ファンタジー
  • ホラー

SS:横切る影

 Gさんは夜に車を走らせていた。まだ暑さの残る時間にエアコンをキツくかけながら実家に急いでいた。焦っているのは実家の飼い犬のマルが今夜を越せないかもしれないと連絡があったからだ。
 大学以降実家に置いてきた飼い犬だが、高校まではしっかり面倒を見ていたので思うところはあるし、実家を出ても帰省の度にかわいがっていた。
 そのマルがもう危ないという歳になったと思うと自分でも年をとったなと思う。そのときふとトイレに行きたくなった。水分なんてほぼとっていないのに何故かと思ったが、耐えきれないので道の駅に車を停めてトイレに駆け込んだ。
 一安心して車を再度だそうと思い、車のライトをつけたとき、一瞬車の前を影が横切った。見えたのは本当に一瞬だったのだが、見まごうはずもなくあの影はマルが元気よく走っていくものだった。まだ子犬だった頃、ああして目を離すと走っていくので気が休まらなかった。成犬になってからおとなしくなったのにな……
 そんな事を思いながら結果を察してしまい、普通の速度で安全運転をして実家に着いた。やはりもうマルは生きていなかったが、最後の最後で自分の前に出てきてくれたんだなと思った。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する