Oさんは『河童って信じます?』という言葉から話を始めた。なんでも彼は河童を見た事があるらしい。
かつて住んでいたところには浅い川が流れていたのだが時々溺れかける子供が出ていた。そこまで危険は無いはずなのだが怪我や溺れかける子が妙に多い。
大人たちが集まって川遊びを禁止するか真面目に議論をしたのだが、時は交通戦争などと呼ばれた時代、車より川の方が危なくないだろうという事で川は解放されたままだった。
そんな時、Oさんは友人たちと都合が付かず、川原で一人遊んでいた。ちょうどいい石を見つけては水切りをしていた。
退屈な遊びだったが、友人達がいない事に腹が立って力一杯皮に石を放り投げた。子供ながらに結構な勢いで川面をはねようとした瞬間だった。
『カチャン』
明らかに水とは違う音がした。ガラス瓶でも捨ててあったのだろうかと川を覗くと、緑色の人間のような物が沈んでいた。しかしよく見ると鱗や水掻きが見え、人間ではないようなので一安心すると同時に、これは言わない方がいいと思いさっさと川から逃げて帰った。
「これだけの話です。ただ、それから川で事故が起きる事はなくなったんですよね。だからアレが悪さをする河童だったんじゃないかって思うんですよ」
そう言って彼は目の前に置いてあるビールを飲み干し、『ま、どっちにしろ今は遊泳禁止になったので確かめようが無いんですけどね』と言って笑った。