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SS:酒に逃げて何が悪い

 Eさんがある晩、深酒をして前後不覚になってしまった。理由は職場での叱責だったと思うそうだ。あまりに深酒をしすぎたものだから、その原因が記憶に残っていないらしい。
 ただ、酒を何缶も開けて飲むと、いい加減な記憶が出来てしまう。目が覚めたときは真っ暗なところに一人寝転んでいた。
 そのとき周囲から人の声がしてきた。声の内容は酒の飲み過ぎを責めるものだったが、周囲は明かりも消しているので誰がいるのかも分からない。ただ、自室で飲んでいたはずなのに何故か真っ暗な中で人に取り囲まれている事だけは分かった。
 突然意識が途切れて、目が覚めたときには自室の明かりをつけたまま倒れて寝込んでいた。
 部屋の中はいつもの通りだと思ったが、一つのカセットテープが転がっていた。
 何故カセットテープなのかと思ったが、それを聞かなくてはという強迫観念に駆られ、押し入れの奥からカセットデッキをとりだし、コンセントに繋いだ。
 カセットを入れて再生ボタンを押すと、昔に流行っていた歌謡曲が聞こえてきた。観覧客の声が入っている事から、おそらく歌番組をテレビの前で録音したものであろうと分かった。
 当時はそう言った事がよくあったのだが、何故このカセットがと思っていたところで声が入った。幽霊の声などではない、昔、祖父がテレビを録音していたときにそれを叱っている声だった。
 その声は間違いなく夢の中で聞いたものと同じだった。そういえばじいさんはあの年代の人間にしてはやけに酒を飲まなかったなと思いながらなんとなく自分を責めていた事に納得したのだった。

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