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SS:先住者

 Yさんはある夏、廃アパートに肝試しに行った。仲間内で幽霊が出ると話題になっているところだった。
 そこはバブル時に投資用に建てられてその後すぐバブルが弾けて放棄された建物だった。そもそも建てられてすぐにバブルが弾けたので完成直前で放棄されたものなので曰くも何もなかった。
 しかしそこは無鉄砲な高校生だ、バブルの事情など知らない世代だし、そういう時代に作られたものなので実際に事件があった現場より例の類いが出そうな建物に見えた。
 クラスメイトを集めてアパートの駐車場……と言っても管理も何もないので草むらだが……に集合し、入り口を探していった。
 とりあえずドアノブをひねってみると、なんと鍵がかかってすらいなかった。いくらこの建物を潰すのが前提で売っているであろう土地でもここまで雑なのは珍しい。
 しかしこれ幸いと部屋の中に侵入し、何も無い部屋を見て回った。建てられていないので家具すらない。怖いとかそれ以前に面白くなかった。
 一つ一つの部屋を開けては見物していったが、別に何もない。そのまま一階の角部屋を開けて入ろうとした。するといびきが聞こえてきて、誰かが忍び込んでこっそり住んでいるのではないかと皆一様に盛り上がった。住んでいる人には迷惑だが、向こうも勝手に住んでいるのだから文句を言われる筋合いはないと奥の部屋を開けると、明るい部屋の中に家族が鍋をつついていた。
 こちらを見てキョトンとした顔をされたので思わず『ごめんなさい!』と言って大急ぎで逃げた。全員あの明るい部屋で食事をしていた家族を見ていたのだが、外から見る限り明かりが漏れている様子はない。しかしもう一度確かめようとは誰も言い出さなかった。
 これが一連の恐怖体験の流れだそうだ。何故工事も完了していないアパートの部屋で電灯がついていたのかはさっぱり分からないという。

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