Yさんに突然降りかかった災難の話。
彼は定時で久しぶりに家路を明るいうちに歩いていた。いつもの帰り道の途中、ビル街を歩いていると、路地に入ったところで真っ白なワンピースを着た女が手招きをしていた。
今流行の……面倒なのは嫌だなと思い無視して進んだ。あの手の勧誘を一々相手していたらキリがない。こういうのは逃げの一手に限る。
そうしてその女を無視して歩いていったのだが、またビルとビルの間に女が立っている。さっきとまったく同じ格好をしている。足下を見ればヒールを履いていた。あり得ない、こちらが普通に駆け足で走ったのにあの女は狭い道を抜けて追い抜いたというのか?
怖くなって大急ぎでその場を去った。その日はそれで終わったのだが、翌日からも同じ女を時々見るようになったと言う。
それから彼はすぐに私が差し出した謝礼をひっつかむと急ぎ足で逃げ出していった。私は彼が嘘をついてはいないだろうが、肝心なところを話していないような気がする。これは私の勘でしかないのだが、彼はその女の正体を知っているような気がする。
ただ……きっと彼を責めたところで詮無き事なので深く訊く事はやめておいたのだが、後日、私の元にメールが届いた。
『アンタ、とんでもないものをウチによこしたね、ああいうのは質が悪いよ、今度からはああいうのにウチを紹介しないでね』
そう書かれていたので、きっと彼は随分厄介なものに関わっているらしい。ただ、彼が謝礼をもらったその足で神社に駆け込むとは思わなかったのでその事を丁寧に詫びておいた。