私がかつて体験した話。まだ幼い子供だった頃、通学路に近所のお婆さんが立っているなと気が付いた。その時は気にせず学校に通っていたのだが、それが三日も四日も続くと不気味にもなる。
ピクリとも動かずニコニコしながら歩道で歩いて行く子供たちを見送っているのだ。老人が朝が得意にしても、毎朝早くから子供を見守るのはなんだか奇妙な気がした。
それが一週間ほど続いた。お婆さんに話しかけようとする子供は誰もいなかった。確認していなかったので、今思えば他の子たちには見えていなかったのかもしれない。
ただ、ふと夕食の時に『あの○○おばあちゃん、毎朝早いよね』と言ったところ、両親が表情を硬くした。
『もしかして○○さんの事か?』
『他に誰がいるの?』
すると両親は気まずそうに言う。
『お前は子供だから話さなかったんだがな、あの人はもう息子さんに引き取られて今はここに住んでないんだ』
それだけ言って、もうこれ以上聞くなと口を閉ざした。なんとなく聞いてはいけないんだと思い黙っておいた。
ただ、かなり後になって聞いた話だが、あのお婆さんは息子さんと決して上手くいっていたわけではないらしい。そのせいで両親も言葉を濁したのだろう。
なんとなくだが、あの時立っていたお婆さんを見るに、『ああ戻ってきたかったんだな』と思ってしまった。