Dさんの仕事場には神棚がある。縁起を担いだ社長が作ったものだそうだが、職場の皆は『それを給与に回してくれれば』くらいにしか思っていなかった。
ただ、それでも運に左右される仕事の時は同僚が銘々に日本酒やビールなどを供えて祈っていた。工業系の仕事場だというのに神頼みというのはおかしい話かもしれないが、運に頼りたくなることや、自分たちではどうにも出来ない範囲の仕事というのが降ってくることはある。
そう言ったときに『頼むからまともな仕事でありますように』と祈っていた。
その願いが通っていたのかは分からないが、割と同業よりまともな案件を振られることが多かった。そうなると神も仏も信じていないのに祈るのがいつものルーティンになった。
神棚が設置されている間は無事経営が上手くいっていたのだが、突然銀行に融資を断られ、大手が救いの手を差し伸べたのでそこの子会社になった。
そうなると朝の神棚への祈祷タイムが真っ先に問題視された。確かに業務時間に宗教じみたことをするなと言う親会社の口出しはもっともだったが、今までこれで上手くいっていたので、上の方針に従って辞めてしまう人と、早めに出社してタイムカードを押す前に祈祷する人に別れた。
そして後日、人員整理の名の下にまともな案件だけを残して何人も首にされた。その多くが朝から神棚に祈っていた人たちだった。
そのときは残った人たちがアイツらはバカだと言っていた。しかし、その少し後、親会社の粉飾がバレて結局その会社がまるごと無くなった。
ただ、事前に解雇された祈祷を続けていた人たちは再就職をしており、その騒ぎに巻き込まれることはなかった。
果たして神とやらがそこまで見通していたのかは怪しいが、その恩恵にあずかっていた人たちは今でも神社に週一で通っていたりするという。