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SS:供えあれば

 Zさんは不眠に悩んでいた。正確に言うと寝ること自体はできるのだが、ほぼ必ず悪夢を見るのでなかなか寝付く気にならず、夜更かしをした末にようやく寝たら悪夢で目が覚めると言うことを繰り返していた。
 そんな生活をしているとどうしても日常的な生活からはズレることになる。徐々に就寝時間が遅れていくのだが、仕事の関係で起床時間はずらせない。そのため半ば眠っている状態で電車を乗り過ごしかけたこともよくあった。
 いよいよ耐えられないような気分になったとき、実家から電話がかかってきていた。
「ああ、Zよね? アンタ、寝てないでしょ? 母さんがアンタが悪いものに憑かれてるって言うのよ。今日あたりお酒が届くからそれを部屋の北側に置けって言ってるよ、あと、盛り塩も忘れないようにってさ。それだけだけど、たまには顔を見せなさいよ」
 それだけ言って電話が切れた。夜も近くになった頃に実家からの荷物が届いて、その中には日本酒がお札を貼られて入っていた。本来信仰心などないが、頼れるなら試すくらいいいだろうとお酒と盛り塩を部屋の北側において布団に入ってみた。ストンと意識が落ちて気が付くと朝日が出ている頃だった。
 ここまで快適に眠れたのは久しぶりなのでそれから部屋に日本酒と盛り塩は欠かさないようになった。それからは実家にも時々顔を出しているそうだ。ただ、何が悪さをしているのかは決して彼の祖母が話してくれなかったらしい。

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