Sさんが新しいスピーカーを買ってきたときのこと。オーディオにこだわっていたので結構な金額のスピーカーを買ってきた。アンプもDACも結構な額のものを使っていたが、スピーカーはいかんせん値が張るだけに高額帯に手を出せないでいた。
そんな時、近所のジャンクショップに某メーカーの者が破格の値段で売られていた。もちろんジャンク品なのだが、それでも見た目は問題ないし、最悪自分で多少のことなら対処できる。そう考えると買う以外の選択肢はなかった。
喜び勇んで買おうと詳細を見たのだが、『ノイズあり、音は出ます』と商品の状態に書かれていた。音が出るのにこの値段なのかと若干訝しんだが、ここを逃して他の人に買われるわけにはいかない。ほとんど迷うこと無く結構な大きさのスピーカーをセットで購入した。
レジに購入の意思を伝えたときに店員が微妙に安堵の表情をしていたが、在庫が売れたからだろうと思い込んだ。こんないいものはそうそうない。
クレジットカードで支払い、さっさと持ち帰ってしまった。ミニバンで来ていたのが幸いしてそのままスピーカーを載せることができた。
その帰り道のことだ、後ろを見ると喪服を着た女の運転する車が後ろを着いてきていた。縁起でもないと思いながらアクセルを踏み込んで帰宅した。
早速高額スピーカーの音を楽しもうと、オーディオルームで配線をして試しに音を出してみた。
「キエエエエエエエエエーーーー!!!!」
やかましい悲鳴が聞こえてきた。音源を間違えたのかと思ったのだが、どこをどう見ても間違いないレコードだし、そんなに急に劣化がするものでもないので、何かの間違いだろうと思い、再び音楽をかけようとした。配線をチェックするとアンプの電源が抜けている。コンセントに抜けないように固定をしていたはずなのに固定具が壊れて電源が抜けていた。では何故音が鳴ったのか?
ジャンク品には禁じ手だとは知りつつ、最悪無料でも良いので引き取ってもらおうとミニバンにスピーカーを載せた。そこで気が付いた。スピーカーのサイズが大きいので後部座席を倒して乗せていたのだが、そうなるとバックミラーを見ようともリアガラスは塞がっており後ろを見るにはドアミラーを見なければならない。
だが、これを買った帰りに喪服の女をバックミラーで確かに見ていた。背筋が寒くなり、もったいないことだがそのスピーカーは廃棄をした。幸いという言うべきか、戻ってくるようなことはなかったが、それ以来あれ以上の出物とは出会えていないそうだ。