Tさんはある日自宅のアパートで寝ていた。そのときなんとなくなのだが仏壇にお供えをしておかなければと義務感にかられた。花屋で仏花を買ってきて、スーパーで落雁を買い、そう言えばなかったなと思い線香を買った。
ロウソクとライターも要るなと思い、百円ショップに行って一通り買いそろえた。忘れ物が無いかどうか確認する。きちんとお供えに必要な物は揃っている。
安堵してアパートに帰って気が付いた。実家には仏壇があるのだが、アパートにそんなものを設置するスペースはない。
何故そんな当然のことに気が付かなかったのだろうと怪訝に思いつつ、仏壇に供えるものを一セット保存しておいた。数日後、花が枯れかけていた頃スマホが鳴った。画面には実家の番号が表示されている。
なんだか嫌な予感がしたのだが、通話を押すと母親から泣きながら祖父の訃報を伝えられた。そこでこの前の奇妙な出来事を話すと、『おじいちゃんもアンタをかわいがってたからねえ……』と言われてしまった。花は枯れてしまったので線香とライターだけ持って実家に帰った。
そして一通りの葬儀が済むと母親が祖父が無くなったときの様子を教えてくれた。なんでも昏睡が続いていたのだが、最後に『花が綺麗やな……』と言っていた。それは彼がちょうど花が枯れていたことに気づいた頃だった。
どうやら花は枯れてしまったが、きちんと祖父の元に言ったようで一安心した。そして線香を上げてから帰宅した。これを偶然と片付けることも可能だが、祖父にかわいがられていた思い出があるので、きっと最後に会いたかったんだろうなと思っている。
今でも少しだけ死に目に会えなかったことを硬化していると彼は言う。