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SS:夏の終わりに

 最近の夏は酷暑が当たり前になっている。Aさんもそんな暑い夏をただダラダラと過ごしていた。そうして会社の夏休みにいくつかの有休を繋げてそこそこの長さの連休にしていた。
 できるだけ省コストを目指して三食をスーパーのおむすびで済ませていたが、さすがに飽きてきた。とはいえどうせ仕事が始まったら昼食がコンビニ弁当になり、朝食の時間は無くなり、夕食はその辺のファストフードになるのだ、変化はもうすぐ起きるのだから面倒なことはしたくなかった。
 ふとカレンダーに目をやると休みが残りあと数日となっている。そのときに何故か実家に帰ろうかと思い立った。幸い一人っ子なので実家に帰ったところで兄弟姉妹がいるわけでもない。ならば夏くらい少し顔を出しておくかとお盆も終わったのに実家に顔を出しに行った。
 実家ではそれなりに歓迎をしてもらった、一人っ子ゆえの特権だと思う。思わずだらけつつまともな飯を久しぶりに食べたことに妙な感銘を受けていた。
 その晩、客間で寝かされたのだが、夢の中に貫禄のある老人が立っていた。杖を持っているが、その体格からして歩くのに杖は必要無いのではないかと思える。
 いきなりその老人は杖で殴りかかってきた。反撃しようとしたのだが、その爺さんが妙に強かった。杖で殴られてから拳骨を思い切り頭に打ち込まれて目が覚めた。頭にたんこぶはできていなかったので、夢にしたって酷いもんだと思った。
 エアコンが効いているというのに夢の中で爺さんと取っ組み合いをしただけで汗をかいていた。仕方がないので着替えることにしたのだが、上着を脱ぐと身体や腕に杖で殴られた部分が赤く残っていた。夢なのになと不思議に思いつつ、ようやくあの爺さんの顔が誰のものか分かった。昔の白黒写真に映っているごせんぞとやらだった。
 昔爺さんに見せられたのだが、夢を見るまですっかりと忘れていた。墓参りくらい行ってやるかと思いたち、線香とロウソクを持って早朝に墓参りに行った。
 一応両親はまだ健在なので墓は綺麗にされていた、だから線香だけ供えれば良いだろうと先祖代々の墓に線香を供えて帰ろうとした。そこで墓石の後ろ、卒塔婆を立てるスペースに夢の中で見た杖が置かれているのに気が付いた。
 ワガママな爺さんだな……と苦笑してから、また来年も墓参りくらいしておこうと思い短い帰省は終わった。翌年も帰省して墓参りをしたのだが、さすがに毎年出てくるのは面倒なのか、あの爺さんの夢は見なかった。

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