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SS:海の側で

 Mさんは小学生の頃海に遊びに行った事がある。それだけならごく普通の小学生だが、数回行った内で学校に行ったときのことが未だに忘れられないそうだ。
 そんなことを言ったところで良くある学校での体験学習だ、大仰なものではなかったので海で遊べるだろう程度に思っていた。
 予定日になるとみんな揃ってバスに乗り、海までの道を走っていった。楽しそうにしている者、おしゃべりに興じている者、果てはバスに酔って青い顔をしている者など、様々な様相をしていた。
 とはいえバスで割と簡単に行ける程度の距離なので誰も寝たり吐いたりするような時間もなく研修をする海に着いた。みんな海で遊べることに心を躍らせていたのだが、バスの運転手が何かを教師に言うと、教師の顔色が変わって、研修所の職員らしき初老の人に話しかけていた。
 なんだか深刻そうな顔を大人がしているなと思うと、生徒たちに向けて教師が言う。
「今日は熱中症の危険があるから海は無しだ」
 それに対して多くのブーイングが上がったが、教師が強引に抑えた。不満たらたらのまま屋外でその施設の偉い人の話を聞いて、食事をしてから学校に帰り解散となった。
 集団下校だったのだが、そのとき同じ班で、一緒に海まで行ったTくんが言った。
「なあ、おかしくないか?」
「何が?」
 何を言っているんだと思いつつ問い返すと、Tは神妙な顔で言った。
「俺らが海へ入れなかったのって熱中症の危険があるからだよな? じゃあなんで屋外の暑い中みんな延々と長話をしたんだ? だったら海に入っても熱中症の危険に変わりがあるとは思えないんだが……」
 言われてみればそれもそうだ。結局時間を潰すのに大人たちがなんとか場を繋ごうとしたような不自然な話だった。となると大人たちは何かを隠していることになる。
 Mさんはそれだけ教えてくれた。学年が進んでからもうアレがなんであって、どんな理由で中止されたのかは分からないし、知ろうとも思わないそうだ。
 ただ、Mさん宛てにはいい年までなっても、一度たりとも小学校の同窓会は無いらしい。

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