Cさんは地方に転勤になったのだが、本社に帰ることはないであろう片道の転勤だったが、給与はほぼ下がらなかったので、いい機会だと思ってマイホームを買った。都市部だと価格が高いし、転勤に怯える生活になる。帰ることがないと思えば少しだけ気が楽だ。
家族も思うところはあったのだが、子供もまだ就学前だったので転校の心配がなくなった。いい機会なのだろうと思い、環境の良い場所を選ぶことが出来た。
ただ、購入した物件は安かったのだが、何故か一室だけ妙に湿度が高い部屋があった。計るまでもなく蒸し暑いし、ポテチを開けて数時間おいておくともうすでに湿気っている始末だ。その部屋だけは不満だったが、他の部屋だけでも家族全員に個室を確保できるほど部屋があったので、そこは出来るだけ入らないように決めて、子供にも近寄らないようにと言っていた。
ところがある日のこと、その部屋で何か腐臭が漂ってきた。どうも床下から臭いがしてきているようなので畳を剥がし、床を少し開けて床下の様子が見えるようにした。
そこには井戸があった。建物の中に何故とも思うが、とにかく井戸が暗い口を開けて床下に何故かある。そもそも床下に入れないようになっているのに何故井戸があるのか謎だったし、そこから腐臭は漂ってきていた。問題は井戸がすっかり涸れているようで、何故そんな臭いがするのかは不明だったが、ひとまず蓋をしておいた。
それから数日後、不動産屋がやって来て、『井戸に蓋をしませんでしたか?』と尋ねてきた。『コイツら、知ってやがったんだ』と苛立ちを覚えたものの『それが何か?』と答えると、『ウチできちんと供養をするので蓋は外していただけませんか』と言う。費用は全部向こう持ちだということなので不承不承それを受け入れた。
それからすぐに神社で井戸を封印する儀式を行って、息抜き穴をつけて井戸は潰された。
それ以来その部屋も普通に使えるようになったのだが、儀式をやっているときに『だからきちんとやらないとダメだろうと言っただろうが』と不動産屋の偉い人が、新人らしき人にお説教をしているのを聞いてしまった。
以来、そこは普通の部屋になったのだが、客間にしてしまい、普段は使うことの無い部屋になってしまったという。