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SS:夏のツーリング

 Dさんは夏なので暑い中をバイクでツーリングしていた。なんでも、人が見ると涼しそうに見えるが、実際暑い中を走るのは前からドライヤーの熱風をあてられているようなものだという。
 ただ、夏には晴れの日が多いし、暑いのをなんとか我慢すれば少なくとも冬の雪の上を走れと言うほどの無茶ではない。バックパックにスポーツドリンクを数本入れて遠出をすることにした。
 しかし大学生なので金が無い。仕方ないのでネットカフェやカプセルホテルを駆使することにした。
 ある山の中を走っていたときのことだ、日差しがきついなと思いながら走っていると、突然冷風が体に当たった。夏ではあり得ない感覚に驚きながら、そのままバイクを走らせた。
 山の中で小さな町があったのでそこに立ち寄って、喫茶店に寄り、コーヒーをいっぱい頼んだ。不思議な涼しさで汗は引いていたので店の冷房が寒いくらいだった。
 サイフォンで淹れたコーヒーが出てきたときに『旅行ですか?』とマスターに聞かれたので『ええまあ、貧乏旅行ですが』と答えた。
 するとマスターが少し真面目な顔になって言う。
『この辺にも旅行に来る人がたまに居るんですけどね、ほら、あっちの方に山が見えるでしょう? あそこは昔刑場でしてね、結構出るって言うんですよ』
 そんなことを言われたので『え……あっちから来たんですが』と言うと気まずい食う気になったが『まあ! あくまで噂ですから!』と取りなしていた。
 いつもより速いペースでアイスコーヒーを飲み干して、帰りには遠回りになったものの別の道を使った。無事帰宅できたのだが、あの町には二度と行きたくないそうだ。

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