Sさんは昔田舎のある村に住んでいた。まだ市町村合併がされておらず、村が珍しくない頃だった。
その年、村の祭りでお神輿を担ぐというものがあった、まだ子供が多かったのでお神輿を担ぎたいという子供が大勢居た。Sさんもその一人だったのだが、『お前には別の大事な用事がある』と言われてしまった。
何をするのかは直前まで聞かされなかったので不満な日々を過ごしていたのだが、前日になってついに何をするのか聞かされた。
なんでも、神輿に乗って町を回っていくのが役目らしい。それ自体は大して体力が必要でも無いし、何故そんな役が必要なのか分からなかった。
祭の当日、白装束を着せられ神輿の上に乗せられた。そのまま町を練り歩くのだが、みんな目立つ色のはっぴを着ているのに、自分だけ白装束なのが不満だった。
神輿がルートを一周すると、最後に戻されるわけだが、そのときにお昼ご飯が出る。ただ、何故か自分の分だけが肉を一切使わない料理で、それを神輿の横で食べて帰ってこいということだった。
なんだろうなと思いつつ、さっさと食事をすませて帰ろうとしたところで視線を感じた。振り返ると神輿の方から『要らんな』という声が聞こえた気がした。
怖くなって家までダッシュして帰ったところ、『そうか、なんて言ってた?』と父親に聞かれた。
聞いたままのことを言うと、母親が涙を流して嬉しそうにしていた。ワケがわからないので説明を求めると、どうやらあの祭にはかつて生贄を必要としていた神のための祭りだったらしい。それが連綿と続けられていたのだが、時々神様に気に入られる子供も出てくるらしい。そういった子がどうなるかは教えてもらえなかった。
ただ、結局コロナウイルスと少子化、市町村合併でその祭りは今では行われていないそうだ。