Nさんは配信者だった。過去形なのは、彼が恐ろしい目にあったからだそうだ。その話によると……
その日はお墓での配信となった……と言うのは建前である。事前に墓地の風景をそのまま撮影しておいて、自分の後ろにGB、グリーンバック、要するに緑色の背景を置いて、それをソフトで透過し、あたかも自分が今墓地の中にいるように見せる方法を取った。
さすがの彼も人目のある墓地で堂々と不謹慎なことができるほどメンタルが強くない、そこであたかも不謹慎に見えるような映像を流すことにした。
わざわざ有休を取って日が出ているあいだ、丁度あらかじめ撮影した映像と矛盾しない時刻に配信を開始した。
どうせ足下は映すわけではないので雑な合成でもバレるわけがないと思っていた。配信が始まると『不謹慎』『罰当たり』などのコメントが付いていった。しかし広告収入目当てなので悪口であっても立派な収入源程度に考えて、心の中でほくそ笑んでいた。
そして配信が終わろうというときだった。一つのコメントが目に入った。
『これ合成じゃね? ばあさんがミリも動いてないじゃん』『それ俺も気になった』『幽霊なんじゃね、コイツかばあさんかがさ』
そのようなコメントが付いていた。ばあさんだって? そんなもの背景を撮影したときに居なかったはずだ。一体何が見えているのだろう?
自分でも怖くなって配信を早めに切り上げ、配信アーカイブをチェックしてみると、そこには撮影時には絶対に居なかったはずの喪服の老婆がカメラを動かしても姿勢一つ崩さず映り込んでいた。横にカメラを移動させると滑るような動きで自分の背後に映り込んでいる。
結局彼は配信から足を洗って正直にお寺にお祓いに行った。そこで住職にこってり絞られた後、配信アカウントの削除を条件に除霊をしてもらった。
彼は住職に『二度目はないですよ』と言われ、今では配信は見るだけにしていると言う。