「面白い話ではないんですが……」
Sさんは前置きにそう言ってから自身の体験した恐ろしいものを語った。
「借りパクって言葉はご存じですか?」
意外な言葉が出てきて驚いたものの、一応頷いた。怪談とは無縁の言葉に聞こえるのではあるが……
「友達とかから借りたものをそのまま返さないってことですよね? 怪談らしくはないですね」
私の言葉に彼は苦笑して答える。
「そうですね、確かに褒められたことではないですが、幽霊とは関わりないような言葉ですよね。でもね……」
それは小学生の頃、ゲームソフトの貸し借りがよくあった頃の話らしい。彼はあまり思い出したくないようだが、最近あったことなので喋って楽になりたいと言った。
「昔借りパクをされたことがあるんです。小学生にとってはソフト一本の値段なんてとても手が出ない大金ですが、友人関係なんてそんなものですし、貸したらそのまま引っ越しされましたよ」
その後なにが起きたかを話し始めた。
そんなことは最近まですっかり忘れていたんですけどね、理由は分からないのですが借りパクされていたものが返ってきたんです。え? 良いことだって? 小学生の時に貸した安いソフトですよ、それも今じゃ動作させるハードさえロクに手に入らない機種のゲームです、欲しいですか?
私はそれでも返してくれたのだからいいことなのでは? と言ったのだが、彼には違う話だそうだ。
返ってきた日なんですが、まず朝起きて郵便受けを覗いたらカートリッジが入っていたんですよ。貸したことさえ忘れていたようなものですよ、そんなものがこんな形で返ってくるなんて思わないじゃないですか。
え? なんで自分のものと分かったかって? 当時はゲームソフトに名前を書くのが結構ありましたからね。光学ディスクになってからすっかりそんな文化は廃れましたが。
その時は何かの拍子に近くに来てソフトを入れていったのかなと思っていたんです。借りパクって正直に謝るのは恥ずかしいってことかなくらいに思ってたんです。
それからしばし時間は経つのですが、小学校の同窓会があったんですよ。同窓会なんて行っても小学校の時代なので大したものじゃないですけどね。
一応同窓会に顔を出したんですけど、地元の居酒屋でくだらない話を駄弁っていたんです。そこで気がついたんですが、アイツ……借りパクしたやつですが名誉のために名前は出さないでおきましょう。そいつが来ていなかったんですよ。そいつはこういったイベントには喜んでくるようなやつだと思っていたので意外だったんですが、もう地元から離れたのかなって思ったんです。一応幹事に訊いてみましたよ。
そうしたらそいつ、案内を送ったらもう死んでたって返ってきたそうなんです。まあガキ大将みたいなあまり褒められたやつではないので驚くほどではないんですが……じゃああのゲームは誰が返却したんだろうなと不思議に思うんですよ。結局、そのゲームはプレイせずに押し入れの奥の方に箱に入れてしまい込みました。中のデータが同案っているかなんて考えたくもないですから。
Sさんは未だになにも知らないと言っている。彼によると、『知らない方がいいことなんでしょう、ハッキリさせたら怖いことになりそうですから』と言い、未だにゲームは放っておかれているそうだ。