Eさんは動画の配信者として活動している。その活動ではやはり喉を酷使してしまうそうでいろいろな対処をしているらしい。そんな中、少し怖い目に遭ったそうだ。
「心霊って訳じゃないんですけど、そこそこ不気味だったんです」
彼女はそう言って話を始めた。
色々試したんですよ、配信を始めた頃は耳鼻咽喉科までいくほど喉を痛めていたんですが、軌道に乗ってくると慣れちゃうんですよ。そこで粉薬やのど飴で誤魔化す方法を覚えちゃいました。
病院とはなかなか大変そうですね?
ええ、本当ですよ。初めの頃はゲーム実況とかやろうとすると結構叫び声も上げたりしましたから、すぐに喉が痛くなりました。お医者さんに控えろと言われたのでそういう実況は止めたんです。
結局、たどり着いたのがのど飴だったんです。病院はしょっちゅう通うわけにもいきませんし、そもそもいったところで配信を控えろと言われるのは目に見えていますから。
だから手軽で徒歩圏のコンビニでも買えるのど飴にたどり着いたんです。安直な発想ですし、処方薬の方が効くに決まっているんですが、その辺は難しかったので……ポケットに入っている小銭でも買える飴で誤魔化し続けることにしたんです。
そんな中、彼女は就いている職で出張ということになり、その旨を告げて少し配信をお休みすることにした。
地方でやる仕事であり、もう既に彼女は幾度となくやったことなので一々そんなものを気にするつもりもなかった。出張先は西日本の企業だ、今まで数度行ったことのあるところなので気にすることはなかったという。
彼女がその後、しばし新幹線に揺られてから駅に着いた。そして一応二泊三日だったのだが、初日にやることは終わってしまった。その会社はそれなりの年齢の方がほとんどなので、電気電子への対応は難しいし、資金力もあるのでEさんの会社を頼れば解決するという考えだった。
彼女はほとんど手間がかからないというのにおそらく結構な料金を請求しているであろうことを考え、自身の給与の安さに辟易する事になる。
愚痴っても仕方ないので、泊まっているビジネスホテルから近い場所を観光することにした。このくらいの役得はあっても文句を言われる筋合いはない。別に社用のクレカで買い物をするわけでもないのだから自由時間くらい自由にさせて欲しい。
とはいえ、ビジネスホテルのある地域なのでこれといって珍しいものも無い。そんな中、とあるコンビニに入ったところ、見切り品があった。昔のコンビニには見切り品がなかったが、まあなんやかんやあってそういう売り方が出来るようになったとはなんとなく知っていた。
そこでワゴンの中を見ると、様々な商品があった。マイナーなお酒から外国のお菓子など、よく仕入れたなというものもある。
彼女は本社の方針に巻き込まれたのだろうかと思いつつ眺めていると、一つの賞品が目についた。それはのど飴だった。のど飴は自分に合うものがあるのだが、外国産がどんな味なのか少し気になった。
それを会計してビジネスホテルに戻った。喉を休めるつもりで早速それを開封して一粒口に放り込む。甘酸っぱい味だった。意外なことに、ワゴンに置かれているのが不思議なくらい美味しかったので思わず驚いてしまった。どうしてこれが値下げされているのだろうかと思いつつ、せっかく喉の調子がよくなったのだからスマホを持ってきているのだし配信をしようと思った。
幸いビジネスホテルなのでそれほど高速ではないがネット回線はある。PCもスマホも持ってきているし、どちらも私物だ。普段ならしないことなのだが、何故かその日はそんな気分になってしまった。
そうして配信を始めたのだが、なんだかコメント欄がおかしい。彼女は多いとは言えないかもしれないが毎回来てくれるリスナーがいくらかはいた。なのでその人達から、『声変わった?』などと言われるのは訳がわからない。
結局最後まで色々勘ぐるようなコメントがついたので、いつもより早めに切り上げた。そうして帰る前にあのコンビニに向かった。あれから喉の調子が良いので、まだあるのならあののど飴を買い占めたかった。
しかしつい昨日言ったはずのコンビニのあったところは『売り地』と無機質な看板が立っており、コンビニがないどころか、真っ平らに舗装されたアスファルトが敷かれているだけだった。
狐につままれたような気分でそのまま会社に戻り、一通りのことをしてから帰宅した。確かにこれだけなら大した怪談ではない。ただ、彼女はのど飴の製品名を覚えていたのでネットで買えないかなと思い検索をしてみた。
見たことがないものだったので見つからないかもしれないと思っていたが、それはすぐに見つかった。ただ、それは望んでいた販売ページではなく、昔そういう商品があって、規制に伴って危ない成分の入ったのど飴が販売中止になったというニュースだった。
何故あそこでそれを売っていたのかも分からない、在庫だってとっくにないはずだ。真相は分からなかったが、彼女によると、あのコンビニは幽霊コンビニだったのではないかと思っているらしい。