「あの……フリマアプリって使ってますか?」
彼は新田さん、まあ……うん、余り女性に受けそうにない感じを受ける人だ。しかし彼はそれを気にしたことはない。いや、悪い意味で気にしたことはあるそうだが、別に恋人がいないことを引け目に感じたりはしないそうだ。
「もちろん知ってますよ、それが何か?」
「バレンタインデーってあるじゃないですか? その翌日にフリマアプリを覗くと人間の闇を煮詰めたような光景が広がってるんですよ」
どうやらその後日、女性が彼氏からのプレゼントをもらったらまとめて出品しているという悲しい事実のことを言っているらしい。気持ちは分かるがそれはどうしようもないことだろう。
「お気持ちはともかく、何を売るかは自由ですからね」
私がそう言うと、彼は少し不機嫌になってそういう問題ではないという。
「何が嫌ってそのプレゼントを出している連中がホワイトデーにはしっかりお返しを要求してるってことですよ。現実を知ってほしいですね」
吐き捨てるように彼はそう言う。何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「いや、実はそういった曰く付きのモノを一回買ったことがあるんですよ。スマホでしたね、最新機種が安値で売られていたんで、つい買っちゃったんですよ。人の気持ちが一々宿るなんて事はないと思ってましたしね」
そうして彼は哀れな男性が女性にプレゼントしたものを安値で買ったそうだ。しかし問題はそれから起きた。
「スマホが届いたので初期設定をして寝たんですよ。最低限の設定しかしてないんですが、夜中にそのスマホのアラーム音で起こされたんです」
彼が言うところによると、メインスマホはまた別で持っているそうなので、そちらにはアラーム設定など入れていないらしい。
「時々詐欺のスパムは届くし、電話番号が違うはずなのに男から女性を口説いているようなメッセージが届いたり、いい迷惑でしたね。結局、メインで使っているわけじゃないので安値でジャンク屋に売りつけておさらばしたんですよ。やはり人の情念が入ったものを安易に買うべきじゃないですね」
彼は苦い経験をして、それ以来バレンタインやホワイトデー、クリスマスの後の安売りには出来るだけ参加していないようだ。どうやらデジタルの世界にもしっかりと人の念のようなものがあるのだと感じさせられた話だった。