Iさんは冬になると思い出すことがある。それはまだ今から二昔は前のことになる。
彼が昔住んでいた地域には妙な風習があったらしい。
「今思っても理解出来ないんですけど、どんど焼きって有るじゃないですか? あれです、正月のお飾りをまとめて焼いちゃうやつです」
それは知っている。正月に使った飾りを集めて焼く風習だ。火を使うので今でこそやっていないところも多いが、昔は普通にやっているところも多かった。
「問題はその焼くものなんですが……正月の注連飾りなんかは理解出来るんですが……何故か藁人形が入っているんですよ。結構多くの藁人形が焼かれていくのを当時は当然のように見てたんですけど、他の地域でやってないって知らなかったんですよ」
「それはまた珍しいですね。何か謂れのあるものなんですか?」
「それが……父に聞いても母に聞いても『そんなことはやってない』の一言で片付けられるんですよ。ただ、その話題を持ち出した途端に不機嫌になるので多分何か知ってると思うんですよね。とはいえ最近じゃどんど焼き自体が無くなってきてますからもうそれを知る機会も無いでしょうけど」
消化不良だが、その謎の行事はそれだけしか分からないらしい。ただ、少なくとも藁人形を焼いたからと言って、Iさんの住んでいる地域で特別不幸が多いわけではないという。