昨今ではスマホアプリやWEBアプリが主流になって久しいが、未だにPCで動くプログラムを書いている人も多い。これはBさんが体験した不思議な話だ。
彼はソースコードを公開しながら時折飛んでくる要望やバグ報告、機能の希望などを聞きながらアプリを作っていた。ほとんど誰も使っていないものだったが、まだスマホ以前の話なので選択肢が少なかったこともあり、時折修正依頼が送られてきていた。
彼のアプリはそれほどユーザーが多くないのに、的確にバグを突いてくる報告を上げてくれる人がいた。バグは早めに見つかった方がいいので、毎回フォーマットに従って送ってきてくれる人の存在はありがたかった。
大学から帰ってはメールをチェックし、上がってきたバグ報告を受けて修正パッチをあてていた。まだアプリ全部を更新してしまえばいいという贅沢な考えの無い頃の話だ。
彼は毎日のようにバグ報告を出してくれる人がどんな人なのか少し気になったが、ネット上でリアルを追求するのは褒められたことではなかった。別に被害があるわけでもないのでありがたく報告を受けていた。
しばし時間が経ち、就活の時期になってきた。彼はメールチェックするたびに企業からの告知ではないかとヒヤヒヤしていた。PCへのメールを携帯電話に転送していたので毎回音が鳴る度に緊張が走っていた。
しかしバグ報告は相変わらず届くので、彼は暇な人だなと思いながらしばし更新を休止する旨を告げ、アプリのソースコードを全部公開した。あとは読んだ人が直してくれればいい。そのくらいの考えだった。
それから少しして、彼は中堅程度の企業に内定をもらい、無事就活は終わった。疲れ切った体で部屋で寝ていると、夢を見た。それはある一人の女性が泣き続けている夢だった。何故泣いているのだろうか? そんなことは分からないが、その女性は彼を見るなり飛びかかってきて首を絞め始めた、それを振りほどいたところで目が覚めた。
寝汗がすごいことになっていたのでシャワーで汗を流すと、寝直す気も失せたのでPCを起動した。そして以前のようにメーラーを起動させると迷惑メールのフォルダに大量のメールが届いていた。
『なんで直してくれないの!』そういった内容のメールが大量に届いていた。最後の方は阿鼻叫喚の様相を呈しており、もはや日本語としての体をなしていなかった。
彼はそれらを全て削除して、設定をいじってその人からのメールを全て自動削除するようにした。結局誰が送ってきていたのかは分からないが、ネット上で現実のことを指摘しないのがマナーになっている理由の一端を知ったそうだ。