Rさんはゲーマーだ、プロではないがそれなりの実力を持っているらしい。ただ、どうにも解せないことがあったと言う。
「あれはなんだったんでしょうね……未だに結論は出ないんですが、とにかく嫌な思い出です」
嫌な思い出ですか? 一体何があったんですか?
「アレはすこしプレイヤーランクが上がって上の相手とバチバチ戦っていた時の話です」
当時Rさんは失恋をし、しばし悲しんでからようやく諦め趣味にしていた格ゲーをプレイ出来るくらいになった頃のこと。
「対戦相手のプレイヤー名がその俺を振った相手の名前だったんです。嫌な偶然だなとは思いました。でも切断するとペナルティがあるので逃げるわけにもいかず仕方なく勝負をしたんです」
そのプレイヤーはなかなか強く、苦戦を強いられたという。ガードを完璧なタイミングでしてくるし、飛び道具も適切なタイミングで飛ばしてくる。ハッキリ言って鬱陶しい事この上ない相手だった。
しかしそこはRさんもそれなりに格ゲー歴があるもので、なかなか良い勝負になった。最後は技も何もない殴り合いになり辛勝をしたそうだ。相手とはそれきりマッチしたことがない。
「ただ……そこでスマホが震えたんですよ」
それは恋い焦がれていた相手からのメッセージだった。見るべきかどうか少し悩んだ末、彼はアプリを起動した。自分でも未練がましいとは思っていたものの、そう簡単に人間関係を切り捨てることは出来ないものだ。
『こんなに強いなんて聞いてない』ただそれだけ書かれたメッセージを見て、先ほどの相手は失恋相手だったのかと思ったが、こちらから返事を送るのも躊躇われてメッセージは返せなかった。
余談だが、その勝負で最後の一撃は上段のパンチだったそうだ、その後大学で彼女を見た時に顔に痣が出来ていたのはなんの関係もないのだと信じたい。