Mさんは大学生の頃付き合っていた彼女に痛い目に遭わされたそうだ。それ自体は割とよくあることだが、手法が珍しいというので話を聞いた。
「俺が悪いんですけど、浮気したのは事実ですし、でもあんな事をするまで恨まれる覚えは無いんですよ」
Mさんに彼女以外の女性の影がちらつく噂が立ち始めていた頃、当の本人はそんな噂なんて露も知らないとばかりにMさんと遊んでいたそうだ。具体的な内容については公序良俗もあるので伏せるが、まあそういう関係だ。
ある日、Mさんが彼女さんの家に泊まったとき、朝食にオムレツとトーストが出たそうだ。彼はなにも気にせず食べたのだが、彼女が何故かニコニコといつもは見ないような満面の笑みを浮かべていたのが印象深いという。
それを食べ終え、自宅に帰るために電車に乗ったMさんだが、なんだか喉がいがらっぽかった。一時に比べれば落ち着いているとはいえ、やはり喉の痛みがあると言うだけで警戒される。ただの風邪ならいいと思いながら自宅のアパートに帰り布団を被って寝た。
ところが翌日になっても咳が止まらず、息が苦しくなってきた。仕方ないので薬局にマスク姿で行き咳止めを買って帰り、それを飲んだ。ひとまず咳は治まったのだが喉の奥の方にじんじんとした痛みが残っている。不快なことこの上ないが、病院に行くとそれなりにかかるので節約のために我慢してしまった。
その晩、彼女が自分の首を絞めている悪夢を見て目が覚めた。酷くムカムカする喉に水を流し込むと、それが気管に入ったのか強く咳き込んでしまった。思い切り大きな咳をするとカチャンとキッチンのシンクに何かが音を立てて口から飛んだ。
何か間違って飲んでいたのだろうか? そう思ってその何かを見ると真っ白な歯だった。ゾクリとしてそれを生ゴミに放り込んでゴミ置き場に出した。それから心当たりは彼女くらいしかないので『お前何やったんだよ!』とメッセージを送ったところ、すぐに返事が返ってきた。
『残念、生きてたんだ』とだけ返ってきた。それ以来彼女とは連絡を取っていないし、浮気相手とも関係が途切れて社会人になった今でも誰かと付き合うのが怖いのだという。