Lさんが実家に帰省したときの話だ。彼は休暇を取れたのでお盆に実家に顔を出しておこうと思い、有休を取って連休を繋ぎ、実家に顔を出すことにした。
彼の実家には父母しか居ない。兄妹は家を出たし、祖父母はとうに鬼籍に入っている。一応都市部に来てはどうかといっているのだが、両親ともに実家を出るつもりはないらしい。
それなりの年数住んでいるのだから愛着もあるのだろう。だから多少距離があるが、帰省はそれなりにしようと思っていた。祖父母の思いでもあるし、まだ元気とはいえ両親の体調も気になる。そんな理由もあり、一応は顔を出すようにしていた。
その時実家に帰ると、彼が帰ってくるのを予想していたのだろう、夕食を配達してもらっていた。両親がスマホの宅配サービスを使えるようになったことを感慨深げに眺めながら、時代だなと思った。
その日はLさんが実家に歓迎され、通り一遍の親に言われることは代替言われてから床についた。
そうしてその晩、深夜に電話が鳴っていることに気がついた。ジリリリとうるさく鳴っている。こんな時間に誰だよ、そんな悪態をつきながら電話機の場所に向かった。
しかしそこには固定電話は無かった。確かに寝入っていたし、気のせいなのかもしれない。そう思って寝直した。
翌日、両親に電話機はどうしたのか訊くと『言ってなかったか? スマートフォンにしてから固定電話は解約したんだ』そこで思いだした。元々使われていた実家の電話はメロディの鳴る今時の電話機だ、あんな黒電話の着信音はしない。
それから二日ほど泊まって彼はマンションに帰ったのだが、あの黒電話の音の正体がなんだったのかは未だに分からないらしい。