その日、Yさんは体調を崩して床に伏せっていた。インフルエンザなのでいくらブラック企業とはいえ休めと言われたため、熱に浮かされるままにぼんやりと水を飲みながら部屋で寝ていた。
頭がぼんやりとしながら昼ご飯のレトルトパウチのお粥を啜る。非常食として買っていたものだが、案外どこで役立つか分からないものだ。封を開ければレンジで調理出来るというのもありがたかった。
梅干しを一個載せて、部屋のテーブルでお粥を食べる。なんとも虚しい食生活だが、彼には食事に必要以上にお金をかけるつもりは無かった。もちろんドラッグストアにでも行けば栄養食が手に入るのだろう。しかしわざわざ出かけるのは億劫だ。
そうしてお粥を食べ終わって、食器を軽く流し、再び部屋のベッドに寝た。そこで窓の外に人影が動いた。こんな時間にここを通る奴がいるのかとは思ったものの、一々気にするような元気は無かったので無視を決め込んだ。
ところが、それからも何人か部屋の窓に影が映るほど近くを人が通った。変な日だとは思ったものの、何かイベントでも会っただろうか? くらいに思うだけだった。
そして翌日、寝覚めはハッキリしており、熱も下がっていた。ただ、人に移す危険もあるので二三日は有給で休めることになった。
あと数日で出社出来ることを会社に伝えたあと、太陽の光を浴びたくなり窓のカーテンを開けた。そこには二階のベランダが広がっていた。
「あの……あの時見たのは幽霊か何かの影だったのでしょうか?」
私はYさんに『意識がハッキリしていないときのことは気にしない方がいいですよ』と気休めくらいのことしか言えなかった。