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SS:赤い猿

 Kさんの地元は山の合間にある町なのだが、そこではまことしやかな話が伝わっているそうだ。それは『赤い猿は不吉の象徴』という話だ。猿なんだから顔は赤いんじゃないの? と両親に聞いたことがあるそうだが、そういうものではなく全身が真っ赤なのだという。

 その時はそれだけの話だったのだが、そうも言っていられないことがあったと言う。

「実は……赤い猿なんて居なかったんですよ。いないなら何故怪談になるかって? それは似たようなものを見たからですよ」

 そうKさんは言う。赤い猿は見ていないらしいが、では一体何を見たのだろう?

 話はかなり遡ります。まだ中学生だった頃の夏休み、親父が『夕方までには帰ってこいよ』と言ったんです。内は放任されてましたからね、そんな模範的なことを言うなんて珍しいなと思ったんですよ。

 とはいえ中学生ですよ? 夏とは言え夕方なんてまだまだ遊べる時間じゃないですか? 田舎だって遊ぶことくらいは出来るんですよ、当然ですが日が落ちるまでは遊ぶつもりで出かけました。

 問題は山間だったことだろうか、いまいち遊ぶ場所は無い。川で釣りをするか、あるいは少し遠出をして買い物をするか、ゲームセンターなんてものに入ろうものなら翌日注意が出回るくらいの治安だった時代だ。スーパーのゲームコーナーなら買い物のついでという建前で入り浸ることが出来る。

 なんにせよ、都会的な遊びは無理だったということだ。彼は自転車で少しだけ遠めのスーパーに行くことにした。いくら問題視されそうにないとは言え、学区外で遊んだ方がリスクが少なく思えたそうだ。

 そして汗だくになって自転車をこぎ、学区からギリギリ外れたところにあるスーパーにたどり着いた。まずスポーツドリンクを買って飲み干し、ゴミ箱に勘を捨ててゲームコーナーに向かった。

 今ほどプライズ機の発達していない時代だ。まだまだ家庭とは比べられないグラフィックのゲームが普通にあった。

 Kさんは喜んで乱入されないであろう格闘ゲームを楽しみ家路についた。

 もう日は傾き、やや赤みを帯びた光りが差して来ていた。そうして家の近くの山にそって道路を自転車で走っていたところ、死海の隅に何かが見えた。

 そちらをバッと振り向くと、そこには赤く輝く猿がいた。噂のことは知っていたが、本当にいるとは微塵も思っていなかったので少し固まったのだが、よく見ればそれは真っ白な体毛の猿の毛に、夕焼けの光が当たって赤く見えているだけだ。種を明かせばこんなものかと、つまらない話だなと思いながら猿を無視して帰宅した。

 帰宅するなり父親にげんこつを受けた。帰宅時間が遅くなったことを謝ると『その事じゃない! 見たんだろう』と言われ、あの猿のことだと気づいたのだが、何故そんなにキレているのかが分からなかった。とにかく数日は謹慎しろということで、夏休みの終わりに飛んだケチが付いたのだった。

 ただし、謹慎はさせられたのだが、Kさんは謹慎をさせられなかったとしても表には出なかっただろう。その日から数日、部屋の窓の外に本当に全身が真っ赤な猿が手招きをしながら居座っていたからだ。

 幸い不幸があったりはしなかったが、彼がその集落を出るまで門限を守ったことはいうまでもない。

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