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SS:コーヒー好きの祖母

 Hさんの祖母はコーヒーが好きな人だったという。それと関係あるかは言いきれないが、彼女は関係あると断言する。そんな不思議な話だ。

「怪談を知りたいそうなので少し不思議な話をさせていただければ……」

 そんな言葉から話は始まった。

 おばあちゃんはコーヒーが好きな人なんですが、そんなことを言うと豆からとかこだわっているように思われますよね? そんな難しい話じゃなく、おばあちゃんが好きだったのはインスタントコーヒーなんですよ。
 初めて飲んだときに感動したと言っていました。なにしろ当時はせいぜい挽いてある豆からドリップする時代からお湯を注ぐだけの時代に切り替わりを経験したらしいです。アレはすごい発明だったと言っていました。

 そんなおばあちゃんなんですが、やはり年をとると色々厳しいらしく、豆からなんてやってられないと言っていました。それもインスタントが好きな理由の一つなんでしょうね。

 そんな祖母の部屋には買い置きのインスタントコーヒーが常に複数袋ストックしてあったらしい。そんな彼女の祖母だが、年には勝てず亡くなってしまった。彼女は泣いたのだそうだが、後日おばあちゃんの部屋に入ると遺品の整理をみんなでしていた。

 そんな時、ベッドの下からインスタントコーヒーの詰め替え袋が数袋出てきた。みんな懐かしがりながら、『最後までコーヒーが好きだったな』なんて話をしていた。そして供養も兼ねてと言うことで、その遺品のインスタントコーヒーをみんなで飲もうと話になった。
 そこでコーヒーの袋を一つ持ち上げたときに違和感があった。妙に軽いのだ。振っても全く音がしない。

 不思議に思いながらみんなで開けた袋を覗くと、中は空っぽだった。次の一袋も軽かったので、今度は開封がどこからか行われていないかとか、一度開けて熱で貼り付けた跡がないかなど調べて、亡いことを確認して開けたのだが、やはり中身は空っぽだった。

 親戚の一人が『あの世にまで持って行くほど好きだったんだな……』と言うと、みんながしんみりして、結局近所のスーパーで詰め替え袋を買ってみんなで飲んで、一杯は仏壇に供えたそうだ。
 そうしてコーヒーでひとしきり思い出に浸った後、仏壇に供えたものを回収しようとすると中身が空っぽだった。間違いなくそのカップには一杯分のコーヒーを淹れていたはずだったのに……

 全て『そのくらい好きだったんだろう』という一言で片付けられ、そうして祖母の法要は終わった。

 それからも一週間おきくらいにインスタントコーヒーの小袋を供えているそうだが、交換するときには中身が空になっているそうだ。説明はつかないが、実害と言えばコーヒーくらいなので誰も文句を言わず未だにその仏壇にお供えを続けているらしい。

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