「怖くなくてもいいなら話すよ」
浜口さんはそう前置きをして話してくれた。怖いかどうか判断するのは読者なので、不思議な体験があると聞き話していただいた。
「今の小学生がやってんのかは知らないけどさ、学校行事にキャンプってあったんだよ。と言っても据え付けられたテントでしっかり設備の整った施設だから、ただ単に暑い時期に山のテントで一晩過ごすだけなんだけどさ」
彼曰く、その行事中におかしな事があったと言う。
子供にテントが立てられるわきゃないし、そりゃあらかじめ準備されてるわな。で、テントに入って集団で寝る、まあその前に自炊の訓練くらいはあるわけだがな。
「問題はその夜でさ、言って信じてもらえるか分かんないけどなあ……少女を見たんだ」
浜口さんのテントの前に着物を着た少女が立っていたと言う。彼はそれに誘われるままテントを出て、その顔立ちの整った女の子について言った。
「信じてもらえないだろうけどさ、その女の子が行った先は墓場だったんだ。そんなものがあるなんて一言も聞いてないしな、困っていたらその子が俺のポケットを指さしたんだ。まあガキだしな、夜食代わりにキャンディをいくつか入れてたんだ。なんとなくそれを欲しそうにしてたからさ、渡そうと近寄ったらふっと姿がかき消えてな、あるのは一つの墓だけだったんだ」
で、その墓に飴を一個供えてテントに帰ったんだが、その後が大変でさ、勝手に抜け出したって事でこっぴどく怒られたよ。あの女のこのことは言わなかったな、嘘だと思われるのがオチだろうし、そんなことを言ったら連中の怒りに油を注ぐことになるのは流石に分かったしな。
「ま、それだけの話なんだがな、ちょっとだけ後日談を教えてやろう。昔は駄菓子の飴にあたり月のものがあったって知ってるか? 当たりが出たらもう一個ってヤツだ。何故かキャンプから帰って一年ほどの間、何回か当たり付きの飴を買ったが全部当たったんだよ。ただ、百発百中となると不気味に思えて普通の飴を買うようになったんだがな」
話はそれだけだそうだ。彼が言うには当時の教師なら何か曰く付きの場所だったら絶対にあらかじめ言うヤツだったらしい。後日、その辺に墓地があったりしたクラスメイトに聞いたりもしたが、誰一人存在を知らなかったらしい。